会社が大きくなるてェと、社長と社員の距離、段々、遠くなって行くような、そんな気がしますナ。当然、会社が大きくなれば社員も増え、組織も大きくなり、役割や分担、つまり、組織や部門の職務分掌も複雑になって行くのは仕方ありませんヤネ。連れて、権限や責任の明確化、それを細かく決めることも大切です。それは分かる。でも、失敗の責任、誰も言わなかったことですが、これ、決めなくちゃあいけません。失敗した時、一体、その責任は誰が負うのか、それをちゃんと決めておくことがどうも、大切なようで。

 あるとき開発部長が、フッと漏らしたんです。「今度の開発、うまく行かなかったら、オレの責任だって、社長が言うんだよ。そりゃあ、開発部長だから、オレに責任があるてェこと、当り前に分かっちゃいるが、でもヨ、オレ一人の責任だと言われちゃ、やってられねェ。そうだろう、次郎さんよ」。続けて、「大枚の開発費を使ってるのは承知の助。そんなことァ、ハナから分かってるが、ハナから手を抜いてるわけァないだろう。でもよォ、最善尽くしても、ダメな時はダメ。それを、お前のせいだと言われるんなら、サラリーマンなんてやってられねェじゃないか。開発を始めたときにゃ、ちゃんと社長のハンコもらってるだろうが。それを、後から、ダメ、失敗したらお前の責任なんて言われたんじゃ、割りに合わねェ!」。

 確かに、部長が叫ぶのはごもっとも。この話、結構、奥が深いようですナ。一体、開発が失敗したときの責任は誰にあるんでしょうか。

 以前、アタシが開発部長だったときにも、同じようなことを言われたことがありました。その時には単純に、そうだ、全部アタシの責任、頑張るっきゃない、とばかりにまっしぐら。結果的にうまく行ったからいいのですが、失敗したら、一体どうなっていたのやら…。

 今回は第三者の立場、よく考えるてェと、失敗の責任をその部門長が負うなんて、やっぱり変じゃないかと思うようになったんです。

 メーカーにとって、開発とは、その会社の命運を握る最も重要な事業。その最も重要な使命を担う部門長、そりゃァ、確かに責任重大。でも、その分、成功する場合は良しとして、うまく行かなかったときに会社に与えるダメージも大きいてェことは、当り前といえば当り前。だから、うまく行かなかったときに、その責任を部門長が取るとしたら、本当にやってられません。‘詰め腹を切る’の例えなら、いくつハラがあっても足りるわけありませんヤネ。深いですヨ、この問題は。

 部長もアタシも、実は、心の中での結論は同じ。ただ、それを言っちゃあオシマイってことも分かってるんです。そう、会社てェのは、部下の失敗は上司の責任、それが組織てェもんです。その伝で言えば、失敗の最高責任者は社長てェことですよ。ああ、それなのに言えないてェのは、悔しいじゃありませんか。「しようがねえなァ、とにかく行くか」。お決まりの赤提灯。暗い話にならないように、今夜はパーッと、お局も誘いましたヨ。

 「なによォ、失敗の責任? 決まってるじゃない。会社で起こったこと、ぜ~んぶ、社長の責任に決まってるじゃない。当ったり前よ。第一、そのために一番高い給料もらってるのよ。それで責任取らないんなら、アタシが変わってあげるわよォ!」。出ましたよ、お局の雄叫び(おっと、雌叫びか)。聞いてアタシ達、何かホッとしましたヨ。

 「神様じゃないんだから、誰にも失敗はあるのヨ。それを個人でやるか会社でやるか、それで責任者が決まるのよネ。分かるでしょ、個人なら自分、会社なら社長。単純な話じゃない。それを、部門長ごとに責任を取るなんてナンセンス。それなら、部門ごとに分社したらいいのよ。簡単よォ」。

 続けて、「いつも思うのだけど、失敗に責任なんてないと思うの。失敗は前向きなこと、思う存分頑張った結果なら、仕方ないじゃない。やり直せばいいのよ。責任を取らなければいけないのは、不祥事が起こった時よ。不祥事はダメ。ここをちゃんと見なくちゃ」。

 ああ、お局、今日の話は最高ですヨ。アタシ達、いい年して、こんな単純なことが整理できてなかったなんて…、オソレイリマシタ!

 飲むほどに酔うほどに…、三人のボルテージは上がりっぱなし。帰る足取り、見事な千鳥足ですヨ。そして、久し振りのいい酒…。お局、ありがとう。