こんな事情もある。米欧には、多くの地球観測事業者が存在する(米2,欧3社)が、日本には衛星を所有する商用地球観測事業者は存在しない。類似企業としてパスコがあるが、ドイツの観測事業者のアジアにおける観測部門を担当するほか、米国などの衛星画像を販売しているにすぎない。つまり、そもそも国内にはこの分野の市場がないのである。

 衛星はある。たとえば「だいち」は、研究衛星として一定の水準にあると評価されている。けれども、継続性やコストの問題があり、とても商用にはなりそうもない。

打つべき手

 以上、JAXAの産業振興上の状況をみると、きわめて厳しい状況にあることがわかる。その原因もいろいろあるだろうが、かなり本質的な問題として、組織上の問題があるのではないかとにらんでいる。すなわち、JAXAが文科省の所管であるということだ。

 研究開発事業との位置づけになれば、どうしても一品生産になりがちで、シリーズ化などはあまり考慮されなくなる。すなわち、商業ベースに乗せるためには最も重要になる「価格競争力の獲得」が、どうしても二の次になってしまうのだ。

 その一方で、コスト増加を招く要因は、いつまでたっても解消されない。その一例が、いわゆる「お役所仕事」である。仕事を進めるには、何しろ膨大な文書が必要になるのである。そこにはさらに膨大な資料が添付される。もちろんその作成のために、過剰ともおもえる試験、検査、検証が必要になる。このことが、開発期間の長期化と人件費の肥大化をもたらす。これが継続することで、高コスト体質、リスクをとらない体質ができあがるのである。

 その副産物として、ユーザー・ニーズとかけ離れた仕様、運用が生まれたりもする。例えばH2BロケットやHTVは、成功プロジェクトと位置付けられるものではあるが、現状では宇宙ステーション用としてしか利用できず、産業振興につながらない恐れがある。衛星に関しても、世界では小型化が進みつつあるが、宇宙基本計画でこの点が明らかになるまで、ロケットも衛星も、このトレンドへの対応がまったくみられなかった。

 こうした問題を少しでも解消しようと思うなら、宇宙行政を文科省から分離し、宇宙局で一元的に管理するしかないと、私は考えている。このような体制で、「商業化」ということをしっかりと認識し、計画を立て、遂行しなければならないと思うのである。

 学術的成果を否定するつもりはない。だが、ロケットはすでに商業化し、商業化することで市場から資金を調達しながら自律的に進化を遂げるというフェーズに入っているのである。日本も早くその段階に達しないと、学術的成果を継続的に出すために、限りなくその分野に公金を投入するということになりかねない。

 この問題ついては、次回さらに突っ込んで議論してみたい。

藤末 健三(ふじすえ けんぞう)
早稲田大学客員教授 参議院議員
1964年熊本県生まれ。86年東京工業大学卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に行政官として入省。95年マサチューセッツ工科大学経営学大学院に留学、96年には同大学院とハーバード大学行政政治学大学院で修士号を取得。99年東京工業大学で学術博士号(Ph.D)を取得し通商産業省を退く。同年東京大学大学院工学系研究科専任講師に就任、2000年から同総合研究機構助教授。04年民主党参議院選挙に比例区で当選する。早稲田大学客員教授。公式ブログはhttp://www.fujisue.net