社長が出る会議てェのは苦手ですナ。たまには楽しい話をしてくれてもいいじゃァねェか、そう思うのはアタシだけじゃありません。今日の会議も案の定、「何で、うちの技術はハイテクじゃないんだ!」、最初からオカンムリ状態です。「ライバルがハイテクで突っ走っているのに、うちがローテクのままでは、ええっ、これから先、勝てるわけはないだろうが!」。そう言われたって、一体何がハイテクで、どうなるとローテクって言われるようになるんでしょうか。それが聞きてェ!と、心の中で叫んでみても始まりませんヤネ。嵐がおさまるまで、我慢するしかありません。

 会議が終って、開発部長もかわいそうなくらいに落ち込んで、「次郎さんよ、ハイテクにして売れるんなら苦労はないが、商品開発とハイテクとは関係ねェだろうよ」。分かっています、そうなんですがこの話、ちょっと考える必要がありますナ。

 確かにハイテクというのは聞こえはいいのですが、ヒット商品をよく見ると、必ずしもハイテクだから売れたということはないようで…。いささか古い話ですが、あの大ヒットした携帯音楽プレーヤー(○○マン)も、ほとんどが既存の技術だったじゃありませんか。

 「そもそも、ハイテクがずうっとハイテクであり続けるわけァないし、そうかと言って時間が経てばローテクになるてェわけでもない、なあ次郎さんよ、どう考えればいいんだい?」。部長が言うのもごもっとも、ここはしっかりと定義しておきましょうヤ。

 まず、ハイテクの定義。「高度な科学技術で、時代の先端にあって関連分野に影響を及ぼすような技術の総称」と辞書にあるように、要は先端技術なんですナ。ですから、メーカーであるアタシ達は商品開発なので、必ずしも先端技術でなくてもいいわけです。ちなみにローテクとは、「単純で初歩的な技術…」と、辞書を見ながら説明すると、部長が「オイオイ、冗談じゃァねェ、それじゃあ、おれ達の会社は、単純で初歩的なメーカーなのか!」。ヤレヤレ、辞書に怒っても仕方ありません。「怒ったところでせんないことよ。ここは、どうやって社長を黙らせるか、それが問題なんだ」。そう言うと、「そうそう、そこそこ、で、次郎さんどうするよ?」。実はアタシ、一計があるんですナ。

 「最テクてェのはどうだい。ハイテクでもローテクでもない、最適な技術、つまり、最テクと言うのさ」。「そうか次郎さん、そいつはいいャ。これから我が社は、最テクで行きます。社長にはそう言おうじゃあねェか」。ヤレヤレ、部長のご機嫌もやっと直ってきましたよ。

 じゃあ、いつものように赤提灯、そこに何故か、いつものお局も参入です。「へえ~、最テク、いいじゃあない。確かに、新商品に必要な技術なら、ハイテクでもローテクでも、買うアタシ達は関係ないわよネ。最適な技術でできてるわけだから、最テク。次郎さんやるじゃない」。まあ、お局に褒められても、逆に何かありゃしないかと心配になっちまいますが、アタシ、ちょっと嬉しいのです。

 ずうっと開発をしてきたアタシ達、実は、一度もハイテクだとかローテクだとか、考えたことなんてありゃしません。とにかく、喜んで頂けるものづくり、それだけなんですナ。お局が言うように、お客様が良いといってくれればいいわけで、そこが一番肝心です。

 飲むほどに酔うほどに、お局がしんみりと、「実はアタシ、昔、イケメンばかり狙っていた頃があったのよね。でも、見かけはいいけど中身は全然ダメ。そんなオトコが多いのよオ。だからね、見かけじゃなくて、相性。ちゃんとアタシと合うかどうか、要はアタシに見合うオトコかどうかが肝心なのよオ」。「へえ~、それでそんなオトコはいたのかい?」。「そんなオトコ、いたら苦労しないわよ。中身より、外見ばっかり気にするオトコ、多くない?」。確かに、見掛けを気にする男性が多くなってきたようナ。

 …と、ここでヒラメキました。「イケメンがダメなら、適メンてェのはどうだい。外見も中身も最適なオトコを、適メンと呼ぼうじゃないか」。お局、キッとアタシをにらみつけ、「次郎さん、バカなシャレ、言わないでよ! 真剣なんだからァ」。

 お局のご機嫌うかがい、効果覿面(てきめん)とはなりませんでしたナ。…さてさて、お後がよろしいようで…。