このように、日本製品の「品質」をどう見るかといったコメントが大多数であったが、冷静に「破壊的イノベーション」の本質や日本企業の置かれた立場を分析するコメントもあった。

■いわゆる「破壊的イノベーション」とは、「低コスト化技術」や「小型化技術」ではない。従来の技術とS字カーブ(注:技術進歩の度合いが最初は緩やか、途中で急速に、最後は再び緩やかになるという曲線)につなげるものだ。言い換えれば、本当の破壊的イノベーションは、最終的に従来の市場に取って代わるものであり、市場の一部だけを置き換えるというものではない。日本企業の問題点は、中国と日本の両者の経済力に格差があるため、高品質を追求しながら低コストを追求するのは至難のことだと考えていることにある。このため、日本企業は、中国あるいは台湾市場に向けて材料のランクを下げてコストを下げるようなことを行った。その一方で、材料のランクが下がったにもかかわらず価格をそれほど下げなかったために、多くのコメントにあるように「価格が高い割には、品質が良くない」といった批判が噴出してしまった。こうして、価格を下げるプレッシャーが日本企業にはかかって負担がますます重くなり、日本経済もなかなか回復しないことから、日本企業は苦境に陥っている。こうした状況を打開するには日本政府の施策も大切だが、日本企業自身の努力も必要だろう。中国市場に参入することは、日本企業にとって文化や政策などに影響されるために確かに難しいことだろうが、今参入しないと、将来はもっと苦しくなるのでないだろうか(注:文意を変えない範囲で表現を修正)。

 本稿の趣旨は、中国人読者の方々の生のコメントを紹介することにあるが、最後に一点思ったのは、本来「イノベーションのジレンマ」は、ある時間的な「余裕」をもって進行するはずのものではなかったか、ということである。「持続的イノベーション」を進めているうちに過剰品質となり、「破壊的イノベーション」を進めているうちに既存顧客さえ満足するレベルまで性能が向上する。しかし、今回のこれらのコメントを読んで思ったのは、新興国市場が一気に立ち上がる中で、時間的というより空間的に一気に「ジレンマ」に突入しているのではないかということだ。一気に進むがゆえに、「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の間に衝突が生まれ、それをどう解釈するかについてさまざまな意見が出てくるということだろうか…。

 しかし、見方を変えると「イノベーションのジレンマ」の怖さは、気がつかない内に「破壊的イノベーション」に席巻されていた、というところにあるようにも思う。その意味で、ここで紹介した厳しいコメントが「気付き」のヒントになるということは言えるのかもしれない。