こうした中国政府や中国メーカーの「意図」を理解してどう提携していくかを考える一方で重要になるのは、中国メーカーを中核としたグローバルな水平分業化の流れの中で各領域を担当するメーカーとの連携をどう図るかだ。

 例えば、液晶テレビの上流から下流へのフローを見ると、液晶セル製造、液晶モジュール(液晶パネル、バックライト、駆動ICなどから成るモジュール)組み立て、液晶テレビ組み立てといった工程に分かれる。中根氏によると、このうち鍵を握るのが液晶モジュールの部分で、投資コストが低い割には付加価値がつけやすいために、さまざまな領域のメーカーが参入を狙っている。

 これまでは液晶セルの製造を手がける液晶パネルメーカーがモジュールまで手掛けて供給することが多く、テレビメーカーが参入する程度であったが、近年構成部品であるバックライトメーカーやEMSも触手を伸ばしている。自前主義の傾向が強い日本メーカーはこれまで、例えばパネルであれば液晶セルの形で供給したり、台湾系EMSと提携するといった動きは韓国や台湾メーカーに比べれば弱かったが、これからはこれらのメーカーと臨機応変に協業していくことが重要になってくる、と中根氏は強調していた。

 もう一点、中国ビジネスを考えるうえで中根氏の話で面白いと思ったのは、液晶パネル工場の誘致活動を熱心に進めているのは、地方自治体であり、「公共事業として見ている」と語った点である。

 「公共事業」であるから、液晶パネルの合弁企業の中国側企業は国営企業であることが多い。例えば、シャープが亀山第1工場の第6世代の設備を売却し、第8世代の合弁事業の協議を進めている「中国電子信息産業集団有限公司(CEC)」は国営企業である。

 中国は本来社会主義国であるから国営企業がこうしたシーンで主役を握るのは当然といえば当然である。冒頭で紹介した『チャイナ・アズ・ナンバーワン』では、伝統的社会主義の三本柱は、(1)労働に応じた所得分配、(2)計画による資源配分、(3)国有企業を中心とする公有制である。そして同書によると、中国はこの3本柱を時間をかけた「漸進的改革」により、資本主義の柱、つまり(1)資本を含む生産要素による所得配分、(2)市場による資源配分、(3)私有財産に入れ替えてきた。その意味では、液晶関連ビジネスについても、最初は国有企業が中心でも少しずつ非国営企業中心の運営に変わっていくということを念頭に置いておいた方がよいということかもしれない。

 そもそも、この「漸進的改革」は、中国全体の経済成長を可能にした要因である、と著者の関志雄氏は見る。旧体制を維持しながら新体制の適応範囲を広げることによって、改革への抵抗を弱めながら改革を進めることができた。この結果、計画経済と市場経済、国有企業と非国有企業が共存する二重構造(いわゆる「双軌制」)を生んだ。これは、汚職などの温床になるという弊害も生んでいるが、大きな摩擦や抵抗なしに新体制への移行を可能にする手法でもある。

 こうした二重構造は、日本の産業が持つ大企業/中小企業の二重構造に類似した面もある。今後、中国政府や国営企業と連携を進めるうえで、このあたりを考慮すると相互理解が進みやすいかもしれない。さらに、日本自体の今後のイノベーションを考えるうえでも、「二重構造」をうまく利用して経済発展を遂げた中国の体験は参考になるだろう。