巻頭言

 佐々木次郎と申します。これから皆さんに「言えない大事」というコラムをお届けすることになりました。最初ですから、私の自己紹介も兼ねて、これから何を書くか、書きたいか、ちょっとご案内いたしやしょう。

 歳は、ハッキリ言うのもやぼですから、もう少しで定年といたしやしょう。メーカーに入社して30有余年、ずっとものづくり、開発一筋でしたが、うちの経営者、何を思ったのか、この私を経営企画室長にしちまったんです。

 そりゃあ、いきなり言われてビックリしました。第一、「今度は経営サイドで考えろ」って言い方ァないじゃないですか。まるで、今まで会社のことを考えていなかったってェことですか。サラリーマンですから、お上には逆らえませんが、そのうち社長にしてくれる訳ァないし。で、この際、今まで言おうとしても言えなかったこと、それも結構大事なことを書き残しておこうと思いましてネ、ここに登場したってェ訳なんです。

 あ、そんなに構えないでくださいよ。言えない大事ってェのは、何も、内緒ごとや悪口を言うんじゃない。東京生まれの東京育ち、よそ様の悪口なんざァ言いたくもありませんから。

 で、何が大事かてェと、今まで仲間と開発してきて、褒めてあげればいいものを誰も褒めてあげなかったり、逆に、よしゃあいいのに誰も止めなかったり、言ってしまえばそれで終わりなんてェ事、あるじゃないですか。

 あるいは、黙っていればその時は誰も困らないが、それが後に大問題になる事。その逆で、今言わないと風化しちまって、後になっても誰も気付かない事。開発という人生模様の中で、いつも感じながら口には出さない、いや出せなかったこと、言っちまった方がいいと思ったんですョ。

 それに、最近のものづくりや開発、何か淋しかァありませんか。とにかく安くなくっちゃいけねェなんて、昔は誰も言いませんでしたョ。ものづくりや開発の目的がコストだとしたら、それは変じゃありませんか。

 言えない大事、実は、言いたい大事なんです。お天道様が見ているから、知っているから大丈夫。それもいいかも知れませんが、お天道様が忘れちゃったらシャレになりません。本当は大事なのに、お立場やその時の雰囲気、色々あって言えない事、このコラムは、そんな大事を遺す、言っちゃあなんですが、ものづくりや開発の遺言みたいなもんです。

 言いてェ事を東京言葉で、少々品は落ちますが、これから、暫くお付き合いの程、すみから隅までズ、ズイーッと、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

中期経営計画と二つの数字