グーグルは今年9月、金融関連サービス「Google Finance」の新コーナーとして「Google Domestic Trends」を公開した(同コーナーはこちら)。これは、米国経済のさまざまな分野の動向を、グーグルのネット検索の動向に基づいて見ることができるというもの。様々な分野の検索動向と米国の株価指数や企業の株価を時系列で比較できる。

 グーグルのサービスは、現状では検索動向の生データの提供に近い形だが、いずれ株価を本格的に予測する技術の開発につながる可能性は十分にあるだろう。全世界のユーザーの検索履歴は、財宝が大量に埋まっている宝の山に変わるかもしれない。

Web2.0の真価はこれから

 東京工業大学の高安美佐子研究室、電通、ホットリンクの3社で行っている共同研究プロジェクトでは、口コミ・データから内閣府が発表する景気指標を予測する技術の開発を進めている1)。実際に予測技術を開発しているのは、高安美佐子准教授と同研究室のOBである一橋大学の水野貴之専任講師だ。

 下の図は、ネット上にある多数の人たちの口コミの内容を分析することで算出した「口コミ景気指数」とも呼べるような指標と、内閣府が毎月発表する街角の景気実感を示す景気ウォッチャー調査の指標を比較したグラフだ。二つの数値の相関係数は0.92と一致度は高い(1に近いほど、一致している)。政府発表の調査数値に相当する指標を、ネット利用者の口コミから算出できることを示している。

景気動向を口コミから予測
ネット上の口コミの分析で算出した「口コミ景気指数」と,内閣府の景気ウォッチャー調査を比較した。相関係数は0.92と高い。グラフは,一橋大の水野貴之専任講師と,東工大の高安美佐子准教授が準備中の論文「ブログを用いた景気指数の測定」から。
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 景気ウォッチャー調査以外にも、内閣府の景気動向指数(CI)も、既に口コミから高精度に予測できるようになっている。この指数は、景気動向を反映する機械受注や新規求人数、鉱工業生産など複数の指標を基に算出される国内景気に関する総合的な指数で、毎月1度発表される。ただ、複数の指標が発表された後に算出するため、発表のタイミングはリアルタイムではなく、実際の経済活動からは2カ月のタイムラグが生じる。

 今回開発した技術の狙いは、この景気動向指数をリアルタイムに予測することだ。景気動向の予測を参考に、工場の生産ラインの拡大・縮小を的確に判断する経営者や、株式市場の動向を予測する証券アナリストなどにとっては、必要な情報がリアルタイムに得られることには大きな利点がある。通常であれば、2カ月前の情報を基に1カ月に1回しか判断できないことを、毎週、もしくは毎日でも判断できれば、企業経営の大きな武器になる可能性があるだろう。

 いわゆる「Web2.0」と呼ばれるユーザー参加型のネット・サービスは、この数年大きな潮流となった。その言葉は使い古され、もうブームは去ったという見方をする識者もいる。だが、その真価が発揮されるのは、実はこれからだと私は見ている。