仮に芸術家が幻覚系の麻薬を服用していたことが発覚した場合、当然、人として法的には制裁を受けることになるわけですが、作り上げた作品は否定されるのでしょうか?微妙なところです。作者が故人の場合は更に微妙です。アスリートの場合には、出場停止処分と記録抹消処分を課されます。アーティストの場合、この記録抹消に相当するのは、○○賞受賞作品などの賞歴になります。芸術賞の裾野は広範に渡ります。絵画や造形だけでなく、アカデミー賞受賞映画やその主演男優賞などから、芥川賞などの文学も芸術です。技術の世界でも全く同様。ノーベル賞受賞論文から出願特許までみな創造性の表現形であり大事な作品です。

 最近は「脳ドーピング」なんていうフレーズが語られるようになってきました。皆さんご案内のことでしょうから詳しくは語りませんが、まむしドリンクを片手に執筆した特許や受かった試験は無効になるのかというような話です。ちなみにその手のドリンク剤をしこたま飲んで100メートルのレースに出て日本記録など出してしまうと、かなりややこしいことになります。

 ここまで、肉体活動と精神活動に対する、補助・強化手段について、内服する摂取物の観点から話を進めてきました。科学のメスが人体の代謝活動という内側から作用する薬学とか栄養学の世界です。一方、外殻側から人間に近寄ろうとするのはメカトロ技術。例えば電磁波で脳に負荷をかけることでリハビリ効果を上げようとしている医師たちが居ます。脳梗塞などにより脳の一部に損傷を受けた方々が、リハビリを行う際に、健常な側の脳を磁場刺激することで活動を抑制すると、回復効果が高まるというのです。経頭蓋磁気刺激法(Transcranial magnetic stimulation)TMSと呼ばれる治療目的の研究です。

 一般的な話として、こうした切実な弱者向けの技術を普通の人市場にスライドさせて持ち込むと、面白いとか楽しいという、エンターテイメントな効果が得られることがよくあります。そんな「候補」になりそうな研究が、世界中で進められているのです。例えば普通の人の脳に磁場刺激を与えると何が起こるのか、という研究。カナダLaurentian University のMichael Persinger博士によると「神秘体験」を体感できる効果があるらしいのです。オーストラリアFlinders UniversityのRobyn Young博士は、TMSが脳の創造的機能を高める可能性について研究を進めており、University of SydneyのAllan Snyder博士らは、レインマンのようなサヴァン症候群の人たちが示す特殊な能力を、人為的に再現できると考えた研究を続けておられるようです。いずれも磁場を使って論理的な部分を司る左脳の活動を抑制することで右脳に隠された特殊能力を引き出そうとするもの。えらいことになってますね。凡人でも巨匠ダリ級の神秘的な作品ができそうな気がしてきました。

 脳障害のリハビリ効果から、創造力向上、特殊能力発現、神秘体験まで、狙う効果は百花繚乱の様相です。この種のスピリチャル系、いかにも正統派からはトンデモ科学とレッテルを貼られそうですが、そもそも脳の機能が神秘的なだけに、得られる効果も予想がつきません。