刀身全体を均一に赤めていく。
刀身全体を均一に赤めていく。

 作刀方法だけでなく、「性格も正反対やった」と河内はいう。そんな対照的な二人を、あえて表現すれば、「感性の宮入」に「理論の隅谷」ということになろうか。その二人とも、人間国宝に認定された近代の名匠である。しかしながら、その頂上へと至る道は、まったく違うものだった。結局、同じ高みであっても、極めるところも違い、方法も一つではないということだろう。
「結局は人それぞれ、結局は自分自身ということや。だから、ただ真似てみても意味がない。自分というものを出さんとな」

 答えは一つではない。だからこそ「自分は何を目指すのか」ということが大切になる。

焼入れの瞬間。
焼入れの瞬間。

 自分を出すための重要な作業である土置きが終わり、焼刃土が乾けば、いよいよ焼入れとなる。この段階ですでに刀剣は、細長い姿となっているため、細長い専用の火床と水槽のある、専用の鍛冶場で行なう。温度管理にひときわ神経を使うため、この工程は外光の影響を避け陽が落ちてから行なうことが多い。しかし、河内は、新しい土置きを思いついたらすぐに試し、焼入れができるよう、この鍛冶場を完全に外光が遮断できる造りにしている。

 河内が横座に座って焼入れの工程が始まった。弟子たちが切った炭を運び入れ、火床に足していく。河内はふいごを動かしながら炎の大きさを調整し、刀身の位置も動かしながら、全体が均一に赤まるようにしていく。

瞬間的に沸騰した水蒸気が立ち上る。
瞬間的に沸騰した水蒸気が立ち上る。

 時折、炭を足すように指示を出しながら約20分、河内が刀身を引き出した。そのまま立ち上がり、刀身を水槽の上に持っていき、ほんのわずか動きを止める。赤くなった刀身が水面に鮮やかに映り込んだ次の瞬間、すっと刃先から水の中に入れる。刀身の周辺で瞬間的に沸騰した水から、水泡と水蒸気が浮かびあがってくる。この水も、事前に温度を調整しておいたものだ。

 河内は刀身をさらに水槽の中に入れ、水泡の立ちのぼる音がなくなるくらいまで水中に置き、そして引き上げる。見ると、ぐぐっと「反り」がつき、日本刀らしい形状になっている。

 刃についていた焼刃土はところどころはがれ落ちているものの、刃文がどのような具合についているかは、この段階では想像もつかない。「あとは研いでみな分からへん」。そう言って河内は、再び火床の前に座る。