刀匠は、炎の大きさや、炭の中で赤められた玉鋼の赤み具合を見て、こまめに送風の強さや玉鋼を置く位置を微調整していく。
刀匠は、炎の大きさや、炭の中で赤められた玉鋼の赤み具合を見て、こまめに送風の強さや玉鋼を置く位置を微調整していく。

 もちろん、それを支えているのは、伝説になるほどの日本刀の優秀さであろう。「折れず曲がらず良く切れる」という刃物として理想的な条件を備えているのである。一般に、鉄を硬くすれば切れ味は増し曲がりにくくもなるが、それだけ折れやすくなるものだ。つまり、「折れず曲がらずよく切れる」というのは、本来あり得ないことなのである。

 その、相反する要素を並立させるための工夫が、日本刀にはぎっしり詰め込まれている。その代表的なものが、あの独特な姿、折り返し鍛錬で鍛えた複数の地鉄(じがね)を組み合わせ、さらに鍛え上げる複合鍛え、焼き入れによる刃文などである。

 まずは、日本刀特有のその姿。特徴的なのは、反りと鎬造(しのぎづくり)だろう。刃を外周として弧状に反らし、さらに強度を損なわないように注意深く肉をそぎ落とした日本刀は、軽く、振り回しやすい。断面形状も独特で、刀身の背側にあたる棟に沿って小高い線の鎬を通している。こうすることで断面は複雑な六角形となり、強度が増すのである。

図6

 そんな日本刀の素材である玉鋼(たまはがね)は、良質の砂鉄を木炭で低温還元する日本古来のたたら製鉄法を使い作られた鋼だ。炭素以外の不純物、中でも脆さなどの要因となる硫黄やリンをほとんど含まない、極めて純度の高い鋼である。この玉鋼に古い鉄などを混ぜて鍛えて地鉄とする、さらに刃の部分は炭素含量が多く硬いものを、内側の芯には炭素含量が少なく軟らかいものをというように、硬度の異なる地鉄を組み合わせる。こうすることで、信じがたい強靭さが生み出されるのだ。