Tech On!の読者の皆様は技術者。日夜,完璧な製品を目指して精進されていると思う。しかし,完璧は難しい。結果として,商品化は遅れ,技術は埋没してしまう。時に,研究と商品の谷間とも揶揄される。

 ここで完璧とは売り切りを意味している。しかし,世の中には頭が良い人がいる。売り切らずに,持続的に稼ぐビジネスがある。身近なものでは,コピー機やプリンター機器のビジネスである。本体は安値で販売し,トナー,インク,紙で持続的に儲けるという手法である。

 このルーツはジレットにあるといわれる。百年以上前の1895年に考案された髭そりの替刃ビジネスである。ジレットの髭そりを一度購入すると,それに収まるジレットの替刃を継続的に購入するというものである。専門的にはレーザーブレード・ビジネスモデルと呼ばれるらしい。天才である。

 さて,もう一人の天才がスペインはバルセロナの名建築家ガウディである。彼が設計した教会,サクラダ・ファミリアは1882年着工だから,ジレットより昔である。これが未だ完成していない。完成しないから,毎年多数の観光客が訪れる。完成すれば,ヨーロッパにある沢山の教会の一つである。その意味では,サクラダ・ファミリアは完成しないところに存在意義がある。

 何も海外に範を求める必要はない。平安時代の寺院には,わざと最後の瓦を置かず完成を忌嫌ったものもあると言われている。もっとも,太政大臣まで上り詰めた藤原道長は「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」と詠んだそうである。しかし,晩年はあまり幸せだったようには見えない。

 ご承知のように日本のルーツの一つ伊勢神宮では,式年遷宮と呼ばれる20年ごとの神社の建て替えを継続的に行っている。サクラダ・ファミリアの大先輩であるとともに,永遠に完成しないという意味でサクラダ・ファミリアを越える仕組みである。しかも,数千年前に構築されたシステムである。システムを考案した方が神か民かは知らないが,天才である。

 永遠に達成できない目標を掲げて反映しているビジネスとしてダメ押しで加えれば,英会話,ダイエットがある。これは達成されないから,このジャンルの本が,テレビ番組が売れる。そう考えると生涯教育を掲げる大学は,この辺りを生活の糧に狙っているのかもしれない。

 さて,あだしごとはさておき,世の中では今,サスティナブルがキーワードになっている。経営者も安定的に収入がある方が楽である。もちろん,「もったいない」でもOKである。このような観点からアカデミックロードマップ(PDFの資料はこちら)を作成した。

 根本はアルビン・トフラーの提唱したプロシューマー,生産者と消費者の融合である。未完成だから早い商品化ができる。継続的だから社会が安定化する。そして,技術者は永遠に開発を続けられる。このように三方丸く収まる解がプロシューマーである。素晴らしい。

 しかし,少し考え直して欲しい.技術者にプロシューマー化への備えがあるか疑問である。ロードマップでは,自動車を例に共通プラットフォーム上での新車開発が現在の半年から2020年ごろには一月,2040年ごろには数日でできると予測している。これに対する技術者側の備えが必要である。CAD/CAM連携やSILS(Software In the Loop System)やHILS(Hardware In the Loop System)の活用は不可欠である。

 しかし,まだ備えが足りない。プロシューマー化のためには,街と工場が一体化する必要がある。たぶん,街に工場が溶け込む形となるだろう。これは大きな話しなので,別な機会にして,技術屋にとっての大問題は技術者と消費者の垣根の喪失である。

 製品開発において,現在は神様である技術者が一般民衆である消費者と一体化するということがプロシューマー化である。読者の皆様は,技術者として誇りをお持ちだろう。技術者サイドから見るとプロシューマー化とは誇りの喪失である。すなわち,神の地上への降臨であり,技術者の民衆化である。

 ここまで見てきたように,サスティナブル化は既に大きく進行している。市場と直結した製品開発とは,ある意味で未完成品の出荷であり,継続的な改善であり,消費者の開発への参加であり,そして技術者の楽園追放である。

 前世紀は大変な時代であったが,21世紀も大変な時代である。正に変化の時代である。昨日と今日は違う。そして,明日はもっと大きく変わる。技術者が技術者のアイデンティティを失っていく中で,どのように生きていくかの心構えは最低必要な備えに思える。

 読者の皆さんはどう生きていかれますか? 消費者との一体化を楽しむ,それとも新たな特権を開発する。または,それ以外の道を選ぶ。いずれにしろ,立ち止まっているだけではいけないようである。