他の要素技術と組み合わせて事業を強化

 難問の解決策は幸運な出会いによってもたらされた。ガン治療法の研究者人脈を通じて知り合った、当時、徳島大歯学部の口腔外科の講師だった岡本正人氏(現在、テラ取締役)は樹状細胞を直接、ガンの部分に注入する技術を開発していた。直接注入された樹状細胞がガン抗原情報を覚え、ガン抗原情報をリンパ球に伝えるため、ガン患者のガン部分は必要なくなった。ただし、直接注入できる身体の個所のガン対象に限るとの条件があった。

 幸運な出会いが続いた。徳島大の岡本氏から大阪大大学院教授の杉山治夫氏の研究成果であるガンの人工抗原「WT1ペプチド」の有効性を教えてもらったことだった。2007年8月に、WT1ペプチドの研究成果から産まれた特許を所有する癌免疫研究所(大阪府吹田市)から、同特許を樹状細胞利用のガン治療に使用できる独占的実施権を獲得した。この特許の実施権を得たことによって、大部分のガン患者のガン部分が入手できなくても、樹状細胞を有効に働かせることが可能になった。

 テラは、樹状細胞利用によるガン治療技術はノウハウや特許などの関連知的財産を集積して強化し、その使い勝手を高めたり、有効性を向上させたりして、優れたガン治療技術に仕上げた。テラの経営陣が優れたガン治療サービス事業にしたいという強い意欲を持ち続けたことが、人との幸運な出会いを招いたといえる。

 採用第一号のセレンクリニックでのガン治療実績データと優れたガン治療法サービスへの仕上がりが、次第に他の病院などの医療機関に認められた結果、現在、12カ所の医療機関が技術サービスを導入し、「基盤提携医療機関」(テラから施設貸与、技術・ノウハウ提供を受け、治療技術の使用許諾を持つ機関)や「提携医療機関」(テラから技術・ノウハウ提供を受け、使用許諾を持つ医療機関)などとなった(2009年6月時点)。

 さらに、ガン治療法の有効性を一層高めるために、樹状細胞利用の治療法に加えて、抗ガン剤を低用量持続的に用いる化学療法と、最近のIMRT(強度変調放射線治療)装置などを駆使する放射線療法の二つを組み合わせた「アイマックスガン治療法」と名付けた総合的なガン治療法のサービス事業をつくり上げた。3種類のガン治療法を最適に組み合わせてガン患者の免疫機能を最大化するやり方だった。

 現在37歳と若い起業家である矢崎社長は「テラを創業してからは、苦難の連続だった」という。新規事業起こしを手がける起業家が遭遇する苦難だ。この苦難を乗り越えられた大きな一因は、「互いに信じ合える経営陣のメンバーとの出会いだった」と矢崎社長は語る。創業した2004年11月に経営陣に加わってもらった、取締役副社長の大田誠氏と一緒に事業計画を練ったことが、矢崎社長の心の大きな支えになった。創業直後は事実上無給で事業の成功を夢見て励まし合ったという。

 もう一人は、現在、取締役医療事業部長の堀永賢一朗氏だ。2005年3月にテラに入社してもらった。堀永事業部長とは1999年の欧州旅行中にドイツのミュンヘン市で開催されていたお祭り「オクトーバーフェスト」で出会っていた。経営陣に大田氏と堀永氏が加わり、ガン治療技術サービスをどうしたら事業化できるかを侃々諤々(かんかんがくがく)に議論し、事業を成立させるための課題をなんとか打開した。太田氏や堀永氏と一緒に事業化に挑んだので、事業基盤を築けたという。さらに岡本取締役など、「多くの方々との幸運な出会いが現在のテラをつくり上げた」と、起業家である矢崎社長は語った。

図2
創業時から事業計画を一緒に練り上げた経営陣メンバー。取締役の堀永賢一朗氏(左)、代表取締役社長の矢崎雄一郎氏、取締役副社長の大田誠氏(右)