推薦エンジンの導入で、とても感心した家電製品がある。2004年にソニーが発売したHDDレコーダー「コクーン」だ。「テレビを見ているだけで、ユーザーの好みを学習し、進化する」というコンセプトで、ユーザーの視聴行動に基づいて好みのテレビ番組を自動で録画予約してくれるという先進的な商品だった。残念ながらあまり普及せず、生産は打ち切られた。

 それから5年ほど経った今、推薦エンジンのトレンドは、コクーンが実現を目指したのと同じ、よりパーソナルな商品提案の方向に進んでいる。冒頭で“のろけた”私の家庭の事例のように「あなた好み」の気の利かせ方をいかに実現するかというフェーズにある。コクーンは、少し世の中のニーズの先を行き過ぎていたのかもしれない。

“機械の知性”実現はネットにヒントあり

 「この人は疲れているから、食べやすく栄養価が高いフルーツを欲しているはず」と判断できるのは、「相手をよく知っている」ことに加え、「お薦めのモノや提案手法をたくさん知っている」からだ。

 同じ分野でもブランド・イメージの違いで推薦の仕方は変わってくるし、分野が異なればその違いは大きくなる。さらに言えば、個人ごとに気が利くと感じる尺度は違う。ネット上にある多くのユーザーの知識を総動員して、パーソナルに気が利く機械を実現する試みが、ここにきて本格的に始まっているのである。

 HDDレコーダーに限らず、今後様々な家電製品がネットにつながり、多くのユーザーの行動を利用しながら“知性”を持つようになるに違いない。「コンピューターの知性で、いかにさりげなく気を利かせるか」。これを実現する上で大切なのは、リアルな世界でのユーザーの行動に隠れたヒントを見極めることだ。もしかすると、必ずしも最新の技術やシステムは実現に必要なく、とてもシンプルな枯れた技術で事足りるかもしれない。

 気が利くカリスマ店員をコンピューターで実現する多くの技術が今、ネット上で磨かれている。ネット・サービスのAPI連携などが普及し、技術を導入しやすい環境は整いつつある。これらを組み合わせて機器に組み込むだけでも、かなりの機能を実現できる。

 残るは、アイデアを具現化するタイミングの見極め。ただ、この予測ばかりは、まだ機械に頼ることはできそうもないけれど…。