これから数回にわたって、「ミッキーの十戒」についてご紹介させていただきたいと思う。この10項目の訓示は、ディズニー・テーマパークの乗り物の企画やコンセプトの構築、デザインなどを担当する創造的技術者集団、ウォルト・ディズニー・イマジニアリング社において業務上、必要不可欠なものとされている。前回ご紹介させていただいた、ヘンな帽子を被ったマーティン・スカラー氏が提唱したものだという。

 まず紹介したい訓示は、最初に掲げられている「KNOW YOUR AUDIENCE(顧客を知れ)」というものである。

 仕事というものはあまねく、それをなすことによって喜ぶ人、つまり顧客が存在するからこそ成り立つ。製品や利便性などの機能、サービス、情報、感動などを提供することによって、それを享受する者がお金などの代価を支払い、成立するのが仕事だからである。そこで何なにより大切なことは、その顧客をよく知ることで、あらゆる仕事はそこから始まるのだと説く。スカラー氏の訓示は「重要な順」に並んでいるので、この訓示は最高位にある。

 スカラー氏に言われなくても、「お客様を知れ」というのは、ビジネスの現場では頻繁に語られる言葉である。読者の方々も、耳にタコができるほど聞かされたことと思う。新鮮味は全くと言っていいほどないが、あえてこの言葉を再度噛み締めてみたい。

 そのときにまず考えなければならないのは、そもそも顧客とは何なのであろうか、ということである。一昔前まで、日本では「お客様は神様です」と唱えられていた。そんなことも今や過去となりつつあるが、その意識はそう簡単に抜け切れるものでもないだろう。

 辞書からしてそうである。実際にある辞書でサービスという語を引いてみると、以下のように説明されていた。

  1. 人のために力を尽くすこと。奉仕。 例:休日は家族に—する。
  2. 商売でお客をもてなすこと。また顧客のためになされる程々の奉仕。 例:—のよい店、アフター—。
  3. 商売で値引きしたり、おまけをつけたりすること。  例:買ってくだされば、—する。
  4. 運輸、通信、商業など物質的財貨を生産する過程以外で、機能する労働、用役、役務。

 これらの解釈からすると、「サービス」とは「奉仕」のことである。やはりお客様は神様で、その神様にお仕えすることがサービスなのであろうか。その証拠に、上の説明は全般に「無償」という雰囲気が強く漂っている。