値札と価格の格差

 妻と二人で染色作家さんの展覧会をのぞいてみたのだが、そこは展覧会というより、「特設高級着物即売会会場」といった雰囲気が漂っていた。その作家さんの作品を扱うギャラリーの方が説明員として立っておられ、妻が反物など見ていると音もなく近寄ってきて「これなんかすごくお似合いになると思いますよ、ちょっと当ててみていただける、ほらやっぱり、すごくいいわ」などと猛烈に褒めるのである。その横で私は「乗せられて買ってしまうのでは」とやきもきしていたのだが、そこは意外にしっかりしていて、「そのうちゆっくりと」などとその場をすり抜けてしまった。

 そんな様子を横目で見ながら、私は作家さんに染色の技法とかについて話をうかがっていた。すると、「京都の工房は見学もできますのでぜひお越しください、一応販売もやっておりますので」とおっしゃる。妻もそれをしっかり聞いていて、早速、観光を兼ねて出かけてみようということになった。自分的には工房見学が目当てだったのだが、妻的な興味は販売にあったらしい。そこであれこれと迷ったあげく、1本の反物を購入することになった。おどろいたのは、その値段である。

 反物には、たとえば20万円などという値札がついている。けれど、対照表があり、20万円のところには35万円などという値段が書かれていた。「これ、何の値段なんですか」と聞くと、反物についているのが卸値で、対照表がいわゆる「希望店頭価格」なのだという。「で、おいくらでお譲りいただけるんですか」と聞くと、作家さんは「6掛け」でいいという。20万円の方の4割引、つまり12万円でいいというのだ。

 たぶん、こんなことになっているのだろう。作家は12万円で問屋に売り、問屋はそれを小売店に20万円で卸す。それを小売店は35万円で消費者に売る。問屋、小売店という2段階の流通機構を経ることで、工房出荷価格で12万円の反物は35万円になるのである。そのうち問屋を飛ばせば、小売店は12万円で仕入れられるようになり、作家のところに直接押しかければ消費者が12万円で手にいれられるようになるわけだ。

行儀の悪いことだから

 京都は、古い商習慣を大切にする土地だというのが、京都在住の方がよく口にする言葉である。江戸時代から続く窯元の当主もこんなことをおっしゃっていた。「うちは作るのが専門で、出入りの業者さんを通じて買っていただくということをずっとやっておりまして。でもね、最近はときどき、売ってくださいとお客さんが直接みえられるんですよ。それはえらい行儀の悪いことやということで、昔の人はやらんかったもんですけど」。