それから10年以上経ってからのこと、2006年にディズニー映画が発表した『カーズ』という作品がゴールデングローブ賞のアニメーション部門において最優秀賞を受賞した。大陸を横断してアメリカのシカゴとロサンゼルスを結び、アメリカの経済や文化を繋ぐ重要な役割を果たした国道66号、いわゆるROUTE66を舞台に広げられる「車」を擬人化した、ディズニーらしい愛情と感動の作品であった。その真っ赤で可愛らしい主役のキャラクターが人気を博したので、まだ記憶に新しい方もいらっしゃると思う。

 まだご覧になってない方におおざっぱな設定をお教えすれば、こんな感じである。ROUTE66が開通した当時は、それで皆が活気づき、華やかだった。しかし、時代の経過とともに効率化が叫ばれるようになり、ついには高速道路の建設が始まった。その高速道が開通すると皆は喜んでそれを利用するようになり、ROUTE66はだんだんと影が薄くなっていった。同時に、その道沿いにあったローカル・タウンも同様に廃墟と化していく。そんな一つのタウンに、主人公の真っ赤なレーシングカーが舞い込む。傲慢な彼は「速さこそすべて」と考えていた。しかし、そこでさまざまな出来事に遭遇し、仲間に巡り合ううちに成長し、本当に大切なものとは何かを知っていく。

 話は、その映画の授賞式でのこと。プロデューサーが舞台に上がり、受賞後の喜びのスピーチで、こう話したのである。「この映画を通じて伝えたかったことは、それに至るまでのプロセスである。結果や成果、効率を最優先する現代社会で、われわれが忘れかけているプロセスや日々の積み重ねについて知ってもらいたかった。本当に大切なものは、一つ一つ、一日一日の積み重ねである」。

 そのスピーチを聞き、イマジニアリング社の副会長であったマーティン氏の「何よりも大切なことはプロセスなんだ!」という言葉を突然思い出した。あれはまさに、『カーズ』という映画のメッセージと同じものだったのだ。バッジが沢山あるという結果が大切なのではない。一つ一つ、こつこつと集めていくというプロセスが重要なのであり、そのプロセスを思い出させるものだからこそ、彼はあのハットをあれほど大切にしていたのではないかと。

 プロフェッショナルは、「結果がすべて」と言われる世界である。それを常に聞かされ続けていると、ときとしてプロセスの大切さを忘れてしまいがちだ。しかし、プロセスなくして結果が生まれることはない。生まれたとすればそれは単なる幸運で、持続的に結果を生み出すことなどできはしないだろう。

 けれど、プロセスと向き合うというのは、実につらい作業である。まず、プロセスの向上にはゴールがない。普遍的な理想像もない。自ら試行錯誤してつかみとり、それを刻々と変化する状況に対応してブラッシュアップし続けなければならないのである。しかも、プロセスがよくても必ずしも成功するとは限らない。逆に、プロセスはむちゃくちゃでも「まぐれ当たり」ですごい結果が出ることもある。そんなときはついつい「結果がすべて、プロセスなんてどうでもいいんだよ」と自分を信じ込ませたくもなってくる。