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第7回・海外バイヤーと渡り合う(3)

野町 直弘=アジル アソシエイツ 代表取締役社長
2009/04/27 17:00
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「C.P.M.って何か分かるか?」

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 田中がおもむろに鈴木の方に顔を向け,全く違った話をする。
 「鈴木さん,このMikeの名前の後についているC.P.M.っていうのは,何のことか分かるか?」
 「いや分かりません。それも気になっていたんですけど。Ph. D.みたいなものですか?」
 「まあそんなものだな…」
 その後,田中は米国の購買職の話を始めた。

 米国では購買職は日本の公認会計士や弁護士のように専門職として認められている。C.P.M.とはCertified Purchasing Managementの略で,購買管理士の団体ISM(Institute for Supply Management)の認定するプロフェッショナル購買職の資格である。ISMの会員数は4万人以上。C.P.Mは全世界で4万人以上の資格所持者がいるものの,日本では20人程度にすぎず,C.P.Mに対応する国内の資格もない。また米国ではC.P.O.(Chief Procurement Officer)というC.F.Oのような職制が多くの製造業に存在しており,C.F.O.に次ぐ社内的な地位がある。一番驚いたのが購買職の給与だ。C.P.O.の平均給与は約4000万円,C.P.O.の次の購買部長の平均給与は約2000万円。こんなにもらっている日本人はいない。

 国が変われば状況は変わるものだ,と鈴木は思った。そう言えばエンジニアも,日本では社長になるケースがあまり多くない。そういう意味ではエンジニアもバイヤーも似た立場なのだな,とも思った。

 田中は続ける。
 「俺が何を言いたいか,分かるか? 要するに米国では購買職とは専門職で,一匹狼的なヤツが多い。もっと言うとプライドもめちゃくちゃ高い。中にはこのMikeのように,訳の分からないヤツもいる。
 ただ,ヤツらは理屈をつけるのだけはうまいし,それに短期間に所属を転々としているから,限られた期間にできるだけの成果を上げることに全精力を傾ける。今回の場合は品質確保という逆のケースだけどな」。

 「田中さん,要するに厄介なヤツにつかまっちゃったってことですか?」
 「まあ,そういうことだな」。
 「田中さん,助けてくださいよ」。
 「お前,お願いする人を間違えてないか? そういうのはまずはお前のところの上司に相談する話だろ」。
 「…」。
 「まあいい。今回はバイヤーでないと解決できないかもしれないからな。今何時だ?」。
 「11時ちょっと前です」。
 「違うよ,ミズーリ工場だ」。
 「えっと,ちょっと分かりませんが,昼であることは確かです」。
 「ちょっと待ってろ」。

 田中はおもむろに机の中から名刺を探し出し,受話器を取り上げた。
 「Hello, May I talk to Mr.…」流暢な英語を使っている。

 10分程度話したあと電話を切り,田中が言う。
 「黒須化成の現地法人で対応できそうだ。ただ樹脂の材料が違うから検討が必要だと言っている。図面あったら,この名刺あてにメールを送ってくれ。Mikeには俺が仁義を切っておく」。

「いったい,何だったのだろう!」

 数週間が過ぎた。Mikeからはその後何の連絡もない。もちろん設計変更依頼書も届いていない。
 鈴木はちょっと心配になった。そろそろ米国での一次試作が始まるころだからだ。

 そんなことを考えていたところ,先輩エンジニアの佐藤が聞いてきた。
 「鈴木,そう言えば,米国の生産対応の話どうなった? マイク何とかとかいうバイヤーが文句付けてきていたよな」。鈴木は田中に相談した翌日,佐藤には状況を説明していた。
 佐藤も忙しい中,やはり一次試作の件を気にしていたのだろう。
 「ちょっと連絡して確かめてみてくれ」。佐藤が言う。
 嫌だなあ,と思いながら鈴木は社内電話帳でMike Petersonの社内電話番号を調べ,現地がビジネス時間であることを確かめた上で電話をしてみた。

 「ツー,ツー,カチャ,This Number is not available now…」無機質なアナウンスだけが流れた。「どうなっているんだろう。番号を間違えたかな」。何度確認をしてかけ直しても,同じ無機質なアナウンスしかでない。
 「仕方がない。メールしてみよう」。しかし,数回メールをしても,どれも不達メッセージだけが戻ってくる。

 「もしかして,転職したとか?」 鈴木は購買の田中に電話をかけた。Mikeのことを聞くと,田中はよどみなく答えた。
 「あー,あいつ1週間前に退職したよ。今度は医薬品メーカーの購買部に行ったみたいだね。例の件は黒須の現法が対応していて問題ないみたいだぜ。よかったな。鈴木さんよ」。

 鈴木は思った。「いったい,何だったのだろう…」。

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