今回は国際競争における決断の重要性に関するテーマを採り上げます。

国際競争と契約

 海外の仕事をしていると,さまざまな面で日本との違いが明確になってきます。私自身,日本では当たり前のことでも国や組織が変われば通用しなくなる現実を数多く経験しました。

 皆さんの会社で1000万円の設備投資が必要な場合,承認を得るまでどのくらいの日数がかかるでしょうか。また,承認を得るために必要な印やサインの数はどのくらいでしょうか。

 私自身が経験した話をします。日本のある自動車部品メーカーで1200万円の設備投資が必要になりました。起案書への捺印は

  • 担当者
  • 上司である主任
  • 課長
  • 部長
  • 設備部門の課長
  • 設備部門の部長
  • 担当取締役
  • 専務
  • 社長

以上9人の印が必要でした。そして役員が海外出張していたこともあって,全員の承認印をもらうまでに1カ月半かかりました。

 その後,韓国のある電機メーカーでも設備投資の承認を得ることになりました。こちらの場合には日本円で約2500万円の設備投資が必要でした。必要だったのは,担当者およびその上司である課長のサイン,そして役員会でその件を提案したところ,その場で社長の決裁が出て投資が決定したのです。期間はわずか6日間でした。

 スピードが要求される昨今,決断が遅れれば遅れるほど企業の損失も大きくなります。世界を相手にするにはスピードが必要であると実感した出来事です。

優柔不断になるな

 成功哲学を完成させたNapoleon Hillは,2500人の人々を調べた結果,30項目にわたる失敗の原因のうち「決断力」の欠陥こそが最大の原因であることを突き止めました。そして「決断力」と正反対の意味を持つ「優柔不断」こそが,誰もが克服すべき大敵であると述べています1)

1)ナポレオン・ヒル著,田中孝顕訳『思考は現実化する』,騎虎書房

 Napoleon Hillは,次のようにも述べています。「億万長者など問題にならないほどの巨富を築いた人々を分析して明らかになったことは,例外なく全員が素早い決断力の持ち主であったことだ」。その反面,一度決断したことを変更しなければならない時には,慎重に時間をかけて新たな決断をしていることも分かっています。

 一方,富を築くことに失敗した人々は,例外なく決断を下すのが非常に遅く,また一度決断したことを変更しなければならないときは,とても素早く,それも頻繁に行なっていました。

 例えば,米Ford Motor社を設立したHenry Fordは,決断力が際だっていたのはもちろんのこと,決断を変更するときには十分に時間をかけていたといわれています。

 「Ford Model T」(T型フォード)の発売を決断したHenry Fordは,醜い車だからモデルチェンジをしてほしいと顧客や友人から再三言われていましたが,断固として受け付けませんでした。そして発売から数年後,T型フォードは爆発的に売れ始め,1920年には年間100万台を売り上げて,市場占有率は57%にもなったのです。顧客や友人の意見を安易に受け入れ決断を変更していたら,このような成功はなかったかもしれません。