今回は,「成功者に決断力を学ぶ」という観点から幾つかの事例を紹介します。

 2001年9月11日に米国で発生した同時多発テロの直後,米Dell Computer社(現在はDell社)では,当時社長兼COOだったKevin Rollins氏が専属のチームを立ち上げ,被害を受けた顧客に対応しました。同社は,受注生産した製品を直接顧客に届ける「ダイレクトモデル」を採用していることから,顧客にどのような影響が出たかがすぐに分かり,迅速に緊急対応プランを実行できたのです。具体的には,崩壊した世界貿易センターのツインタワーに入居していた顧客に対し,元々保有していたコンピュータやサーバなどと同等の設備を近隣のビルに緊急設置し,顧客の業務を支援したのです。

 当時のDell Computer社の在庫は平均4日間。2001年9月11日は火曜日でしたので,在庫がなくなる翌週月曜日からは部品を欧州,中国,マレーシアなどから空輸して,コンピュータやサーバを製造したといいます。社長であるKevin Rollins氏の素早い決断によって多くの企業を援助できたのです。

広告記事を取り去って寄付を募る

 書籍のネット販売で世界的に有名になった米Amazon.com社も,9.11テロにいち早く対応した企業の一つです。同社の創業者であり,CEOのJeffrey Bezos氏も事件直後,同社に何ができるかということを社内で即座に検討させました。

 そこで同社が実施したのは,同社のWebサイトに赤十字社へのリンクを張ることにより,多くの人に対し犠牲者へのサポートを訴えることでした。さらに,24時間以内にすべてのプロモーションや広告記事をWebサイトから取り去り,犠牲者に対する哀悼の意を表しました。赤十字社への寄金は,12時間で60万米ドル(当時の為替レートで約7200万円)を集めました。その後も寄付は増え続け,2001年10月10日には寄金総額は約687万米ドル(約8億2000万円),寄金した人は17万5316人に達しました。

「奇跡」を起こしたベテラン機長

 最近では,2009年1月16日に米国・ニューヨーク市で起きたUS Airways機の不時着事故におけるChesley Sullenberger機長の決断力が高く評価されています。マンハッタンの西側を流れるハドソン川に同機が不時着したのは午後3時31分。その5分前に現場から東へ約12kmのラガーディア空港を離陸した同機は,離陸直後に左右のエンジンに鳥が吸い込まれ,飛行できなくなったのです。

 市街地に墜落すれば大惨事になるところでしたが,機長の沈着冷静な決断力と高い操縦技術により,搭乗者155人全員の命を救えました。「奇跡」を起こしたベテラン機長には,乗客や関係者から称賛の声が上がっていますし,「機長の対応は見事だった」とニューヨーク市長のMichael Bloomberg氏も機長の行動を高らかに称えています。

決断力を磨こう

 どの分野においても,成功している人は「決断力」を持っています。それぞれの分野や職場で毎日のように決断をしているのです。常日ごろの決断力は非常事態や緊急事態が発生した時に,大いに発揮されます。技術者の皆さんも常日ごろから決断力を磨きましょう。

 成功者の決断には学ぶところが多いと思います。次回は国際競争における決断の重要性について紹介します。