保守ビジネスが困難だった第1の理由

 前回の続きになるが,半導体製造装置の成熟期のビジネス・モデルとして,保守事業の育成の可能性を分析してみる。われわれの調査によると,半導体製造装置メーカーの保守契約事業の収益性は極めて低いもようである。

 かつては,デバイス・メーカーの製造部門には,装置メーカーよりもレベルの高い技術者がそろっていた。このため,(1)半導体製造装置メーカーのエンジニアリング業務に対価を支払うという意識が乏しい,(2)一部の地域,特に日本では「サービスは無料」という商慣習が依然として存在する,という2点を低収益の理由として挙げる半導体製造装置メーカーが多い。

足元の状況は装置メーカーにとって有利に

 現在,半導体メーカーは半導体の製造よりも設計に,より優秀な技術者のリソースを割く傾向にある。このため,半導体の製造技術において,半導体製造装置メーカー側が従来に比較して主導権を握れるようになりつつある。また,1990年代初頭は日本市場偏重だった日本の半導体製造装置メーカーも1990年代には国際化に成功し,サービス対価を得づらい日本市場への売り上げ依存度は3割程度と推定される。上述の(1),(2)の阻害要因は徐々に解消されつつある。

半導体製造装置事と事務機の決定的な違い:顧客の集中度

 実は,半導体製造装置メーカーが保守事業で十分な利益を計上できない理由で最も重要なのは,「顧客である半導体工場が各地に分散しており,1サービス拠点で1顧客の保守しかできない」という状況が多々生じている点である。サービス拠点にかかる固定費は,サービス提供先の半導体メーカーからすべて回収する必要がある。しかも,半導体メーカーからは半導体製造装置メーカーのサービス拠点の陣容がほぼ丸見えであり,固定費の10~20倍に相当する保守契約料を半導体メーカーから得ることは不可能に近い。

 片や事務機メーカーは,顧客が都市圏に集中している。1拠点で数百,場合によっては1000を超える顧客をサポートすることが可能である。固定費の数十倍の保守契約料を設定しても,顧客からクレームは来ない。また,ほとんどの顧客は事務機に無知であり,事務機メーカーの技術者より事務機に詳しい奇特なユーザーはほとんど存在しない。

半導体製造装置での保守事業の成功例:台湾・新竹の示唆

 ただし,半導体メーカーが狭い地域に集中していれば,半導体製造装置メーカーが保守事業で高い収益を上げることは十分に可能だと,われわれは考えている。

 台湾は半導体メーカーが新竹科学工業園区に集中しており,半導体製造装置メーカーは新竹に設置したサービス拠点から10社以上のデバイス・メーカーの保守をしている。われわれの調査によると,欧米や日本では保守事業でほとんど利益を出せない日本の半導体製造装置メーカーでも,台湾地区の保守事業からは高い収益を上げていることが判明した。また,台湾の半導体メーカーが半導体製造装置メーカーに支払っている保守契約料も他の地域に比べて相対的に低いもようである。半導体メーカーの一極集中は,保守の観点からは,半導体メーカーと半導体製造装置メーカーの双方にとってメリットが大きいといえる。