前回は「選択と決断」の重要性を説明しました。今回は,「鉄鋼王」と呼ばれたAndrew Carnegieにまつわる決断の話を紹介します。

やり残した事業

 今から1世紀以上前の1900年ごろ,米国のAndrew Carnegieは1代で鉄鋼会社を築き上げ莫大(ばくだい)な財産を手にしていました。そして,その財産を社会に還元し始めます。有名な「Carnegie Hall」の建設や,米国全土に3000以上の図書館を寄付したことなどが挙げられます。Carnegieは「人間が金を持ったまま死ぬことは不名誉である」と語っています。

 しかし,Carnegieにはやり残した大きな事業が一つありました。それは,成功哲学を体系化するという仕事です。「既に私が実証済みの成功ノウハウがある。しかし多くの人は,試行錯誤を繰り返し,失敗によってその才能をすり減らしているのだ」というのがCarnegieの主張でした。

人は紹介する,だが資金は援助しない

 1908年,記者をしていた25歳の青年が取材のためにCarnegieを訪ねました。それがNapoleon Hillです。Carnegieは3日3晩にわたって彼が培ってきた成功ノウハウをNapoleon Hillに話しました。そして3日目の夜,Napoleon Hillに提案をしたのです。

 「私の得た成功ノウハウを一つのプログラムとして完成させてみる気はないかね? そのために知り合いやインタビューすべき人たち,成功者,成功しつつある人たちを500人紹介しよう。彼らの協力を得て20年で成功哲学を完成させてほしい。ただし,資金の援助は一切しない」

 皆さんだったらどうしますか? Napoleon Hillも戸惑いました,なにしろ資金援助が一切得られないのですから。

29秒の決断

 しかしNapoleon Hillは「その仕事を引き受けます」と答えました。回答に要した時間は29秒。実は,Carnegieはストップウォッチで時間を計っていたのです。Carnegieが設定していたタイムリミットは1分でした。決断の遅い人間は行動も遅いというのが,Carnegieの経験から生まれた考えでした。

 Carnegieは,Napoleon Hillと会う前に100名以上の人たちを面接していましたが,Napoleon Hill以外は1分以上かかっていたのです。その中には,1年たっても結論が出せなかった人もいたそうです。

無報酬の結果

 一切報酬がないという条件にも理由がありました。Carnegieは,Napoleon Hillにこう伝えています。「私は成功のノウハウを君に教えた。そのうえ君は,成功した人々やその道の大家とこれから長い年月にわたって協力し合うことになる。君が成功しないなどということはあり得ないのだ」。そして,その言葉の通りNapoleon Hillは米国屈指の大富豪になったのです。

 次回は「成功者に学ぶ決断力」というテーマで話をします。