Flash版はこちらから:Flash Playerが必要です


焼入れの前にあけておいた穴をタガネで打って「寄せて」いく。
焼入れの前にあけておいた穴をタガネで打って「寄せて」いく。

「ここからねじ入れになります。それから調子を取ります」

 ここまで長い工程を経て来た長太郎(ちょうたろう)の羅紗切り鋏(らしゃきりばさみ)作りは、最後に、ねじをはめて、調子を取り、鋏としてまとめる工程になる。

 火造りの最後に施した「軸曲げ」と「軸寄せ」の段階でペアリングを済ませておいた親指側と下指側の2枚刃をねじで固定してゆく。ねじ穴をタガネで打ち、ヤスリで少しずつすり、2枚の重なりが理想的な状態になるよう調整していく。このねじ穴の「寄せ」で2枚の刃が接する部分の外観が大きく変わる。同じ羅紗切り鋏でも長太郎のものは他に比べてあか抜けた姿になっていると言われる。それはこの工程に負うところが大きい。見た目をよくするだけでなく、ねじ穴の寄せにはわずかな「遊び」を作り、ねじとねじ穴のかみ合わせをスムーズにする目的もある。このひと手間でかなり使い勝手が変わると石塚は言う。

ヤスリですりながら穴のサイズを微調整していく。
ヤスリですりながら穴のサイズを微調整していく。

「ねじ穴の寄せ方は、うち独特のものがあると思います。ねじ穴にねじをぎりぎり通す方法の方が楽なんですが、そうすると使っていくうちに擦れてきて、ガタガタになってしまうことがあるんです」

 穴を寄せた後、2枚の刃をねじで締めてから、調子を取ってゆく。

「羅紗切り鋏は、ねじを外して研ぎ直します。いい鋏は、ねじ穴のあたりからねじり始めていますから、そうしないときちんと研げないんですよ」

 ある鋏専門の研ぎ師はそう語っていた。ねじ穴から刃先にやや降りていった、鋼が始まる部分からねじる方が、調子も取りやすく、作るには楽だ。実際に、その方法で調子を取った鋏も数多く出回っている。それほど大きな使い心地の差はないかもしれない。しかしそれでは、刃の付け根周辺の調子がうまくとれない。ねじ穴の下の柔らかい地金だけの部分からねじり始めることで、羅紗切り鋏は、刃先から根元まで変わらないスムーズな調子を保つのだ。