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 羅紗切り鋏(らしゃきりばさみ)の三代目長太郎(ちょうたろう)、石塚昭一郎の総火造り鋏の製作は続く。

 指輪(しりん)部分の形が大体出来上がったら、鋼を刃となる部分の地金に鍛接する。炭素が入っているため熱処理を施せば硬度が高くなる鋼は、対象を切る部分のみに使われる。刀剣や他の打刃物(うちはもの)にも通じるこの製造方法は日本独特のものだ。貴重だった鋼の使用量を節約するために考案されたなどと言われるが、他にも大きなメリットがある。一つは、刃物が折れにくく傷つきにくいこと。衝撃を柔かい地金部分が吸収するためだ。もう一つは、硬い鋼の露出が少なくなるので研ぎやすくなることだ。

赤めた地金に、切刃の部分となる鋼の小片を載せる。

 鋏に関して言えば、西欧のものは今も昔もほとんどが全鋼製だ。それに対して羅紗切りを始めとする日本の伝統的な鋏は、刃の部分以外は鉄なので、すり合わせなどを微妙に調整することができるし、修正もしやすい。

 石塚が「総火造り」の鋏に使う鋼は、日立金属製の黄紙という刃物用の炭素鋼だ。他の一般的な刃物鋼に比べて靭性が高く、やや柔かめに仕上がる鋼で、他には斧(おの)や鉈(なた)など大きな力で対象に切り込む道具に多く使われている。粘り強くて欠けにくいので、鋼同士がすり合って対象を切ってゆく鋏に向いている鋼と言えるだろう。

 赤められた小さな黄紙の鋼片が、鍛接剤がまぶされた地金の上に載せられ、再び火床(ほど)に入れられる。しばらく置かれ、十分に赤まってから取り出されて金床に置かれると、やおら石塚が鎚を振るう。