リンゴに関する実験結果もある。近畿大学農学部の森山達哉講師の研究によれば、農薬を使用して育てたリンゴより無農薬で育てたリンゴで、多くのアレルゲン(アレルギーの原因となる化学物質)が検出された。つまり、無農薬で栽培され病原菌や害虫から何らかの攻撃を受けた野菜や果物は、自らを守るための防御物質を多く作り出すということだ。個人差はあるが、無農薬の野菜や果物を食べた人がアレルギーを発症するリスクは、農薬を使用した作物を食べる場合よりむしろ大きくなると、ある記事では警告していた。「アレルギーの人こそ化学物質に冒されていない無農薬野菜を」などという風評とは逆の結果である。

 こうした研究から推測できるのは、「腐らない」ということは、奇跡のリンゴが他のリンゴより、自己合成した殺菌物質や農薬様化学物質を多く含んでいるのではないかということである。あくまで仮説であって断言できることではないが、そう疑ってみなければならないと思うし、少なくとも「植物本来の力があるからおいしい、体にいい」などという評判を無邪気に信じてはならないと、理系である私は思う。

 専門家と呼ばれる理系の方たちも同じ思いを抱いているのではないかと思う。たとえば、こんな調査結果があるらしい。いろいろ調べたが出典がわからないので、とりあえず記事に記載されている数字をそのまま挙げてみると、発ガン物質含有に関する調査で主婦とガン免疫学者の捉え方について比べたところ、主婦の43.5%が食品添加物を「発ガン性が高い」と答えているのに対し、免疫学者はほんの1%しかそうは答えなかった。農薬は主婦が24%で免疫学者が0%。一方で普通の食品では、主婦の0%に対して免疫学者の35%が発がん性を指摘している。専門家からすれば「認可されている農薬や食品添加物は、その安全性が確認されているので安心だが、普通の食品にはどんな物質が含まれているかが不明で不安」ということになるのだろう。

それが理系の生きる道

 「・・・てなことで、それが腐らない原因だと思うわけ」と、渾身の調査結果を妻に報告してみた。すると、さすがに少しは真剣に考え直そうという気になったようだ。「ふーん、さすがに理系ね」などと、ちょっと褒めてみたりもする。でも、くやしまぎれにこんなことも言う。「でも、みんながおいしいって言ってるのよ。食べてみたくないの?」。

 もちろん食べてみたい。いや、食べなければならない。仮説を立てたら次は実験。理系はそうあるべきなのである。