で、調べてみたら、あった。こうした防衛機能には「物理防衛」と「化学防衛」の2種類があるらしい。このうち物理防衛は、実を固い皮やイガ栗のようなトゲで全身を覆うなど、物理的な方法で自身を防衛する方法である。リンゴの場合は、どうもそれはあてはまりそうにない。残る手段は、化学防衛である。

農薬様物質を自ら作り出す

 大学の農学部などでは、このことをちゃんと教えている。私が探し当てた玉川大学農学部のシラバスにも載っていた。えてしてまっとうな見解というものは、このように目立たないところに、ひっそりと生息しているものなのである。で、その講義の担当教授がまず言う。「植物は人や虫、あるいは菌に食べられるために生きているのではない」。おお、確かにそうである。しかも深い。さすが筋金入りの理系の先達は言うことが違う。ところがそんな植物は、生存を脅かす外敵から物理的に移動して逃げることができないし、高等動物が持っている免疫のような防御機構も持っていない。けれど、植物は黙って病気にかかったり虫に食われたりしてしまうわけではなく、それらに抵抗する手段を持っている。例えば、「病原菌の感染を受けると、植物体内で天然の農薬とも言えるファイトアレキシンという抗菌性物質を作って、病原菌をやっつけようと」するらしい。

 このように、殺菌成分群を植物は自ら合成し体内に蓄積している。病原菌が感染すると別の殺菌成分群も合成し自らの体を病原菌から守ろうともする。つまり、「無農薬栽培をしても天然の農薬様物質が作物には含まれている」のである。だから、「天然物は決して安全な物ではない」と説明する。

 その、自身で農薬や抗菌化学物質を合成する植物を無肥料無農薬の過酷な状況で育てればどうなるか。私が植物であれば、自身内にある農薬工場をフル稼働させ、病原菌や害虫の侵入に備えるだろう。それでも不足であれば、工場を増設し来る年に備える。そうなれば、無農薬で育てたリンゴは農薬を施して育てたリンゴより、その実のうちに多くの種類の、あるいはより高い濃度の、農薬と同等の働きをする化学物質を含むようになるはずである。

それでも腐らないことはいいことか

 実際、こんな話がある。米国国立大気研究センターの研究チームは、植物が干ばつや季節外れの気温といったストレスに対応する際、大気中に大量のアスピリン化合物を放出することを発見した。解熱剤のアスピリンを外部から取り入れなければならない人間と異なり、植物には自らアスピリンに似た化学物質を生成する能力がある。それによって自己防御能力を高めたり、傷を和らげたりするのだと説明されている。