成績が悪いのは上司のせい

 怖い人に「あんたは間違っている」というのは、とても勇気がいることだ。たとえ相手が実に温和な人であっても、人事権を握っている上司だったりすれば、やっぱり怖い。無事是貴人、沈黙は金ということで、あえて本当のことは言わないで済ませようとするだろう。イヤなことを報告しなければならないときも、それを何重にもオブラートに包んで、苦いんだか甘いんだかよくわからなくしてしまう。それが積もりに積もれば、そのこと自体が組織にとって大きなリスクになる。

 破綻やトラブルの原因になるだけではなく、いいアイデアさえ出てこなくなってしまう。ブレインストーミングのようなアイデア会議でも、発言することによって、いじめやセクハラ、リストラなどの対象になり得ると社員が不安を覚えるようであれば、成果はまったく期待できない。「部下が自分よりいい考えを出したら機嫌が悪くなる、自分や会社に対して批判的な発言をした人のことは決して忘れない、他人の意見にはケチを付けないと気がすまないなんていう上司って、よくいるよね。私も何人も遭遇した。でもそんな人が参加している会議でいいアイデアが出るなんて、まず期待できない」とルーシーはいう。

 だから、上司などのリーダーに求められる最も重要なことは、「部下が本当のことを言えるようにすること」なのだというのが彼女の持論だ。それを裏付ける調査結果も古今にわたって数多くあるらしい。有名な1940年代に行われた経営調査の対象は営業スタッフ。調査員の狙いは、成績抜群のカリスマ社員と業績最悪のダメ社員の違いはどこにあるのかを探ることである。そう聞いて思い浮かべるのは、能力や技術の差とか、教育の違いとか、ノルマ制度の有無とか、給料の多寡とか。でも実際にはどれも当たっておらず、一番大きな違いとして浮かび上がってきたのは「直属上司との信頼感」の有無だったのだという。溢れんばかりの才能と卓越した技量をもった社員であっても、上司との信頼関係がなければ最悪の業績しか残せない可能性があるのである。

「本当のことが書いてある」

 マスコミだって仕切っているのは会社などの組織だから、同じような事情があるだろう。けど、それはあくまで楽屋内での話。上司が怖くて本当のことが言えなかったとしても、外に向いて本当のことを言ったり書いたりすることは十分に可能なはずである。けれど、それがどうもうまくできていない。少なくとも、世間はそう感じている。私も感じている。