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完成品の仕服。緒の結び方にも晴れの席用がある。左が本番用(お茶が入っている状態)、右が待機時用(お茶が入っていない状態)。

 茶道具は代々、人の手による細心の注意を重ねて伝えられるところに価値がある。現代の茶席では、茶碗こそが一番の脚光を浴びる存在であるが、実は数ある茶道具の中で、いっそう格式が高いとされているのが「茶入」である。茶の湯が発達した戦国時代では、人々が手を出せない高価な茶入を所有することが天下人の証明でもあった。実際、権力者同士の褒賞としてやり取りされることも多く、戦国大名の間では「茶入ひとつは一国一城に値する」という通念も生まれたほどだ。

茶入が収まっている総箱を順に解いていく。木の蓋の下に現れたのは風呂敷包みの中箱だ。
中箱から「挽家袋」に包まれた「挽家」を取り出す。

 茶入が普段、仕舞われている桐箱は、だから特別な宝箱といった風情である。

 ある茶入の場合を見てみよう。風呂敷に包まれている箱から順に解いていく。まずは外箱にあたる「総箱」があり、その蓋を開けると、次に「中箱」が出てくる。茶入が眠っているのはこの中だ。ただし、茶入は中箱に直に入れられているのではない。それ自体がひとつの工芸品でもある「挽家(ひきや)」の中に、茶入本体は収められているのだ。しかも、挽家の蓋を開けても、茶入そのものは、まだ姿を現さない。なぜならそれは、絹でできた「御物袋(ごもつぶくろ)」をまとっているからだ。御物袋とは、いわば「寝巻き」。とりわけ大切にされている道具の場合は寝巻きの上から、さらに養生の薄紙が幾重にもかけられていることもある。

 茶道具は本体のみならず、「パッケージ」をも含めて、ひとつの作品世界を構成する。ひとつの茶入は前述したように、御物袋(布)、挽家(木)、挽家袋(布)、中箱(木)、風呂敷(布)、総箱(木)、そして風呂敷(布)というように、布と木で交互に幾重にも保護されている。その「重ね着」の細部に、とりわけ執着したのが茶の文化だともいえる。

 例えば茶の名器は明治時代に多くが欧米人のコレクターのもとへと流れたが、彼らはまったくといっていいほど箱や包装には頓着しなかった。箱とは輸送の際に中身を保護するだけの道具。だから手許に目当ての品が無事届いた時点で、それらを惜しげもなく捨てた。現在でも欧米の博物館に展示されている茶道具に、箱がない例は普通だ。