10月6日,NY株価は1万ドルを割り,東証株価も1万円を割った。遂に不況が始まった。新年の挨拶で予想していたとはいえ,正に波乱の時代である。米国では難産の末,金融支援法が採択された。サブプライムのバブルに乗り遅れた日本の金融機関は欧米に比べれば軽症だといわれている。何が幸か分からない。

 先の金融支援法案もそうだが,何故,不景気になると銀行や証券会社に金を突っ込むのだろう。解説によれば,金が回らなければ設備投資が進まず不況になるそうである。これは少し変である。設備投資の資金が好不況の分かれ目なら,余剰資金は製造業に投下しなければいけない。それなのに,ニュースは金融のことばかりである。もちろん,金融支援は必要であるが,不況対策がそれに尽きては本末転倒である。

 金融業はIT産業である。紙に判子を押して札束や為替とし,株券という抽象化したもので会社を表す。それに留まらず,先物にスワップ,ヘッジ,すべてバーチャルな芸術である。匿名,成りすまし,トロイの木馬,篭脱け,情報技術の悪用手段を何百年も前に金融界は発明している。劣悪証券をロンダリングしたサブプライムなど,正にコンピュータウィルスの金融版とも言えるのではないか。

 20世紀は情報,エネルギー,ものと三層に世界を分けた。そのうち,情報の変化が一番早い。数カ月前の技術が陳腐化する。エネルギーは数十年,素材は百年単位の変化である。その意味で,不況は金融から顕在化する。だから,対策も金融からとなる。それはいい。しかし,金融の次にエネルギーがあり,ものがある。もの,これに当たるのが製造業である。ものづくり産業である。不況対策が金融で終わってはいけない。エネルギー,ものへの対策が不可欠である.

 いやいや,幸にも金融の傷みが少ない日本,まだ,余裕のある日本がとるべき不況対策は銀行,証券ではない。今こそ,イノベーションへの投資が必要である。イノベーション,難しいことだと思われている。しかし,この10年をさらえば,自ずとイノベーションを進めている会社とそうでない会社を区別することはできる。昨日と同じことをしているだけの会社,新しいことにチャレンジしている会社,そして,チャレンジして成功をシステム化している会社に分けられる。そう,このイノベーションを成功させている会社を支援することが本当の不況対策である。

 もっとも,世界中の財布の紐が固くなっているのは事実である。イノベーションを成功させている会社でも製品が高級車では不況対策として疑問である。同じ金を使うなら,どうせやらなければいけないことに投資しよう。それは,環境問題である。Reduction,Recycle,Reuseの3Rがやらなければいけないことである。ここに設備投資をしよう。その資金を支援しよう。不況対策は価値創造。それなら,現実の価値を作り出している技術屋を支援しよう。