1995年,デジタル・スチル・カメラの草分けであるカシオ計算機の「QV-10」や,DV方式のデジタル・ビデオ・カメラが登場した。

 1995年,二つの家庭用デジタル機器が市場で話題を集めた。一つは,デジタル・スチル・カメラ。もう一つは,デジタル・ビデオ・カメラである。デジタル・スチル・カメラではヒット商品が生まれ,デジタル家電市場を支える柱へと成長するキッカケをつくった。

パソコンの普及とともに市場拡大

 家庭用デジタル・スチル・カメラを製品化する動きは1994年に始まっている。米Apple Computer社やオリンパス光学工業(当時)が,同年にいち早く製品を発売した。これに追随するメーカーの動きが顕著になったのが1995年春のことだ。チノン,富士写真フイルム,ニコンといった光学機器メーカーをはじめ,カシオ計算機やリズム時計工業なども新規事業として製品を市場に投入した。

図1 パソコンの周辺機器としてデジタル・スチル・カメラが普及 1995年3月にカシオ計算機が発売したデジタル・スチル・カメラ「QV-10」。同製品のヒットはデジタル・スチル・カメラ市場拡大の引き金となった。
図1 パソコンの周辺機器としてデジタル・スチル・カメラが普及 1995年3月にカシオ計算機が発売したデジタル・スチル・カメラ「QV-10」。同製品のヒットはデジタル・スチル・カメラ市場拡大の引き金となった。 (画像のクリックで拡大)

 この中でヒット商品となったのがカシオ計算機の「QV-10」である(図1)。手のひらに載る小型の筐体に液晶ディスプレイを搭載しており,手軽に撮影した画像を,その場で見られるという「面白さ」が消費者に受けた。同機のヒットを契機に,デジタル・スチル・カメラに対する消費者の関心は一気に高まった。ここを好機とみた光学機器メーカーやAV機器メーカーなどが続々と市場に参入。デジタル・スチル・カメラ市場は加速度を増しながら成長した。

 このころデジタル・スチル・カメラを製品化する動きが始まった背景には,1990年代に入って家庭用パソコンのマルチメディア機能が強化され始めたことがある。画像を扱える機能を備えたパソコンが普及するとともに,パソコン用の画像入力装置として使えるデジタル・スチル・カメラが必要になるという考えが,光学機器メーカーなどの間で高まっていた。このため当時発売された製品は,いずれもパソコンと接続するためのインタフェースを備えている。

 実際にパソコンの進化とともに,画像データを加工して年賀状を作るなどパソコンとデジタル・スチル・カメラを組み合わせた新たな用途が続々と生まれた。これとともにデジタル・スチル・カメラのユーザーは急増。さらにインターネットの普及によって消費者が多くの人と手軽に画像データをやりとりできるようになると用途は一段と広がり,ユーザーの増加に拍車が掛かった。

初めての家庭用デジタルVTR

 一方,デジタル・ビデオ・カメラは,1995年に初めて市場に登場した。日欧の大手エレクトロニクス・メーカーなど10社が発起人となって生まれた標準化団体「HDデジタルVCR協議会」が策定した家庭用デジタルVTRの規格に準拠した「DV方式」の製品である。業界の先陣を切ってソニーと松下電器産業が1995年に製品を発売した。