むしろ,G8以外の途上国が会議中に発表した主張の方が,メッセージ性が強かった。中国,インド,ブラジル,南アフリカ,メキシコの新興5カ国は,「先進国は2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で80~95%削減する」ように求めた政治宣言を発表した。95%削減ということは,火力発電所を全廃し,クルマはすべて非化石燃料化し,さらに鉄とセメント(代替技術のない最大のCO2排出産業)はすべて途上国から輸入する,ぐらいのことをしないと達成できない。おまけに,新興国の気候変動対策を支援するため,GDPの0.5%を拠出せよ,などという要請も付いていた。「地球温暖化を招いたのはあなたたち先進国なんだから,そのくらいのことはしてもらわないと」ということのようだ。

サミットの限界

 サミットという仕組みの限界を指摘する声は多い。サミットで取り上げられる議題は,もはや主要8カ国では解決できない問題ばかりだと言われる。フランスは主要国の枠組みの拡大を主張しているが,増えれば増えたで一層,議論の収拾がつかなくなるだろうという声もある。冷戦時代のさなかに始まったサミットは,グローバリゼーションの進展とともに,主要国という言葉の意味を見失いかけているようだ。

 従って,日本をはじめとする先進国のメディアには,最初からサミットに多くを期待していない,という論調が多い。地球と人類にとっての課題は増えるばかりだが,それらは複雑に入り組んでいる。国益を守るための国というシステムは,そうしたグローバルな問題の解決に適していない。そういうことがはっきりしてきたのだという。こうした状況をして「文明の危機」と呼ぶ批評家も多い。

 そんな中,この取材旅行中に読んだ本に,ちょっと違った視点をみつけた。「新たなる資本主義の正体――ニューキャピタリストが社会を変える」(スティーブン・デイビス他著,ランダムハウス講談社,2008年)という企業の統治に関する本である。これまた技術記者のカバー範囲を越えたテーマで,本当は奥が深いのだろうが,さわりだけは理解できたので紹介してみる。

 世界の有力企業の株の保有は,個人投資家から機関投資家に移っている。その機関投資家の扱う資金の出どころとして,一般市民の年金資金が大きな比重を占めるようになってきたそうだ。不特定多数の市民が拠出した膨大な資金が,機関投資家あるいは資産運用会社の手を経て,世界中の大企業,多国籍企業の株式市場に投資されている。この構造を著者らは「市民経済」と定義し,その主体を「市民株主」と呼ぶ。