専門職は給与に不安

大黒 我々の予想と反して,造る途中にやりがいを感じている人が少ないのは,“お金”つまり,給与ともおおいに関係しているのではないでしょうか? 造る途中にやりがいを感じている人はどちらかというと専門職志向の強い人かと思いますが,管理職志向の強い人と比較して給与の面で優遇されているとは思えないのです。その辺にヒントはないでしょうか?

木崎 専門職志向の人と管理職志向の人とで,給与の金額に違いがあるかどうかもアンケートで調べてみました。すでに専門職あるいは管理職になった人と,これからのこととして希望している人は一緒になっていますが。専門職の平均年収は754.8万円,管理職の平均では年収864.5万円,回答者の平均年齢は専門職が42.9歳,管理職が42.3歳でした。

大黒 やはりと言うか,管理職の方が,給与の面では有利なんですね。

やる気に「大いに影響する」のは何か?
やる気に「大いに影響する」のは何か? (画像のクリックで拡大)

木崎 給与という点では,アンケートではこんな質問もしてみました。「やる気に大いに影響するのは何か」を聞いてみたのです。最も回答率が高かったのが「仕事の内容ややりがい」だったのですが,給与金額も相当の回答率がありました。ただし年齢別で見ると,年齢が若い方ほど「給与の額が大いに影響する」と回答し,年齢が進むに従ってその割合が減少する,という傾向が見えます。

勝力 これを見ると,若手の方が給与金額によってやる気が左右されるのが分かりますね。

大黒 年齢を重ねると,何となく自分の置かれたポジションが分かってくるじゃないですか。たとえば出世コースに乗っているんだとか,いくら頑張っても課長止まりだろうとか。そういった意味で,年齢を重ねるほど給与に求める期待も年々減ってくるのかもしれません。一方で,今の若い人は我々が思っているより敏感ですよ。上司からそんな会社の事情が透けて見えるんだと思います。その結果,彼らには将来よりも現在の給与に重点を置いているのではないでしょうか?

勝力 ものづくりは好きなのだけれど,何となく先輩たちを見ていると専門職の人は報われていない。このまま,突き進んでいくと,あまり幸せな姿が見えてこない。このあたりにジレンマがありそうですね。最もモチベーションが高まる状況というのは,「管理者として仕事に携わるのではなく,専門職としてものづくりに携わり,かつ給与が高いという状態」であるという人が,少なくないのではないでしょうか?このレイヤーにいる方々は,ものづくりと給与のどちらを取るか天秤にかけ,よりモチベーションを維持できるほうを選択しているのかもしれません。

大黒 ものづくりが好きな人は多いのに,給与とのバランスを考えて本来の適性と異なった方に進んでしまう。企業から見ても,ものづくりが大好きな人に果たしてもらうべき役割は軽くはないでしょうに。

木村 こんな状況を放置していてよいとは思えません。是非,製造業の経営者の方には,対策を打っていっていただきたいところです。



【今回の要旨】
■良い“もの”を造るという動機でモチベーションは高まるか?

  1. 「ものを造る途中」と,「ものが役立っていること」ではやりがいを感じる技術者の数はほぼ同じ。
  2. 大ヒット作を出すためには,ものを造っているときにやりがいを感じる技術者の存在にクローズアップする必要がある。
  3. 一方で,ものづくりに没頭できる専門職は,給料水準などで先行きに不安。
  4. ものづくり面からも給与の面からも併せて,モチベーションを高められるような仕掛け作りが重要。