中国がサイエンス分野で強い理由

 中国が半導体材料の研究分野で躍進しているのは,それがサイエンスの段階だからだと考えられる。イノベーションという面では,問題はその先の事業化の段階である。例えば,サイエンスの知見を元に装置を買ってきてすぐに製品になるような状況であれば,中国の競争力は製品レベルでも急速に高まるであろう。

 半導体の種類にもよるが,新規の半導体材料を使う場合,既存の装置は存在しないことが多い。このために,サイエンスの比重が高い半導体産業とはいえ,事業化にはエンジニアリング型のスキルが必要とされる比率は高いはずである。そのエンジニアリング部分のキャッチアップは難しいと考えられる。これは「エンジニアリング」の比重が高い炭素繊維では中国はなかなかキャッチアップできないという事情からも類推できる(以前のコラム)。そこから,ブログへのコメントで書いたように,中国で発明された材料を,日本のエンジニアリング力で実用化にもっていくという連携の仕方があるのかもしれないとも思う。

やっぱり,メモリ

 この「サイエンス型の半導体産業におけるエンジニアリング型スキルの必要性」という意味で興味深かったのが,オムニ研究所オムニTLOイノベーション推進本部本部長の湯之上隆氏が『日経エレクトロニクス』誌2008年3月10日号に寄せた論文「半導体生産の国際競争力を分析。安いメモリで新興市場を狙え」である。

 湯之上氏は同論文の中で,日本の半導体メーカーが競争力を上げてきたのは,様々な半導体の中でも一度撤退したメモリだとして,その要因を分析している。それによると,半導体産業は「擦り合わせ型産業」だとして次のように書く(p.119)。

 半導体は擦り合わせ型産業である。歩留まりの早期向上と安定化にはチームワークと,トヨタ自動車がいうところの「改善」が必要になる。異論があるかもしれないが,既存のメモリ製品は独創的な設計力よりも前工程のプロセス技術が競争力を左右している。

 ここで「擦り合わせ」という言葉が出てきたが,これは製品を構成する各部品を相互に調整して最適設計しないと製品全体の性能が出ないタイプの製品(アーキテクチャ)を指す。「擦り合わせ能力」といった場合は,「部品設計の微妙な相互調整,開発と生産の連携,一貫した工程管理,濃密なコミュニケーション,顧客インターフェースの質の確保など」(藤本隆弘氏著『ものづくり経営学』光文社新書)を指す。つまり,擦り合わせ型アーキテクチャの製品と擦り合わせ能力が合致したときに高い競争力が出ることになる。

 擦り合わせ能力は戦後の日本企業に偏在していたと言われることから,擦り合わせ型の自動車産業で競争力が高まった,という説明がされている。半導体産業も湯之上氏の言うとおりに擦り合わせ型産業ならば,自動車産業と同じように,半導体産業も擦り合わせ能力がモノをいう産業だということになる。