トヨタ自動車の国内生産は,長い年月をかけてトヨタ生産方式をベースにして進化してきました。その国内生産が,グローバルにおけるトヨタの生産の中で,果たすべき役割について話したいと思います。

 我々は図1に示すように,国内生産の役割として,大きく五つを考えています。

(1)生産技術開発
(2)海外生産事業体支援
(3)グローバル生産の負荷変動吸収
(4)人材育成
(5)日本生産の国際競争力向上

図1:国内生産の役割

生産ラインに柔軟性を求める

 まず生産技術開発についてお話します。生産技術の革新は,我々のような製造業において,競争力を確保し,成長するための生命線になると考えています。トヨタ自動車では,グローバルにおける競争力を強化するために,世界のどの国でも誰でも容易に扱えるシンプル・スリムな,そして低コストな設備を狙いに開発を進めています。

トヨタ自動車副社長・内山田竹志氏

 そして生産技術部隊では,非常識への挑戦をしろ,あるいはケタ違いへの挑戦をしろ,ということをスローガンに掲げています。革新目標を従来の1/2ですとか1/10という高いレベルに置いて,それを実現するために従来の発想ではない,新しい目標に基づいて,トヨタ生産方式,あるいは生産のしくみを造るということを実践しています。

 これは一方で,先程のトヨタ生産方式においては,日々の改善というのは現場が生産技術部隊の手を借りなくても技術的に行っていける,という背景があります。そういった面では,革新的なケタ違いの目標を達成してそれをやるのが生産技術部隊ということで,高い目標を設定しているわけです。

 いろいろな面で,生産技術革新を実践しているわけですが,大きな方向性としては
(1)生産ラインそのもののフレキシビリティをより高めること
(2)シンプル&スリムな生産手法や生産設備を開発すること
(3)生産工程で高い品質を確保すること

この三つに集約できると思います。この方向性に向かうことで,ものづくりの国際競争力を維持していけるのではないかと思います。

 いくつか,例を紹介していきたいと思います。これはボデーの溶接ラインの一部です(図2)。ひとつの車種専用で大量に生産し続ける生産ラインというのは,フル稼働の時には効率的に造ることができます。しかし,落ちこんだ場合には稼動率が一気に落ち込み,他の車種へのライン切り替えも容易ではありません。各自動車会社は,最初から複数の車種を一つのラインで混入生産できる方式を考えているのですが,生産ラインのフレキシビリティが確保されていれば,さまざまな環境問題への対応も比較的容易であるといえます。

図2:生産ラインのフレキシビリティを高める

 このボデーラインの例では,メインのフロアに横のボデーのサイドパネルを仮付けしています。従来は左の絵にあるように,ABCの三つの治具を外からあててパネルを固定して,溶接をしていました。今では,グローバルボデーラインGBLとよんでいますが,内側に一つだけ治具を入れて,外からその治具にパネルを寄せて立てかけて,溶接をしています。そうすることで,下のロボット配置図にあるように,従来では治具がじゃまになってロボットを配置するために大掛かりな設備を組まなければならなかったのが,じゃまをしないということで,たくさんのロボットを密集的に配置できるようになりました。また,治具の置き場も大変少なくてすんでいます。

 8車種の車の混入生産が可能ということで,これを我々は1996年から国内外の工場に展開を始めています。また設備そのものも汎用性が高まるということで,フレキシビリティが高まると同時に,ラインの設備の汎用化が進み,切り替えのための投資も削減できる,という効果があります。

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