「ユーザーのため」が逃げ道になるか

勝力 そういえば,テレビの取材とか見ているとマスコミや出版社にもいろんな人がいるなぁと思いますがどうですか?

木村 なんと言うか,変わっている人間は多いですね。

木崎 個性的って言った方が問題ないでしょう。

大黒 いずれにしろ,そういった個性的な人と合わなくなってしまって,職場が嫌になる人は多くいそうですが。

木村 でもマスコミには,「誰のための仕事?」と質問されたときに,上司でもましてや会社でもない,読者のためと言えるのが大きいですね。

勝力 そうすると,会社の中の人間関係がうまくいかなくても耐えられると。

木村 もちろん,上司といい関係でいた方が良い記事を書けると思います。でも,所詮記者なんていうのは一匹狼みたいなものですから,取材ができて記事が書ければ,人の役に立っているんだ,という思いが持てるのです。

木崎 まぁ,「誰かのためになるんです」ということを言い訳に,あまり読者が読まない記事を書かれても困りますけどね。

勝力 技術者の立場に立ってみると,「ユーザーのためにものを作っている」という気持ちに置き換えられそうですね。

大黒 使っているユーザーが喜んでいる姿を想像すれば,嫌な上司でも耐えられると。

勝力 でも,記者の書いた記事は,そのまま読者の目に触れるわけですから,記者と読者の距離は非常に近いのだと思うのです。一方で,製品の場合だと,製品企画や営業企画などの部門で製品と市場が見えていれば,実際のユーザーと近いかもしれませんが,例えば一要素の開発者だったりすると,たとえ重要部品であったりしても,ユーザーとの距離は遠くなってしまうのではないでしょうか?

木村 技術者にとって見ると「ユーザーのため」というのは,気持ちを奮い立たせる意味ではちょっと弱いということになるのでしょうか。

木崎 となると,「徹底的に自分の携わっているものをよくするため」,つまりは「より良いものを作る」という理由が気持ちを奮い立たせているような気がしますね。

木村 自分の携わっている“もの”ですか。確かに技術者のモチベーションを向上させている大きな要因としてあるかも知れませんね。では,次回は,“もの”を切り口に議論をしてみましょう。



【今回の要旨】
■「嫌な同僚」にモチベーションを下げられないために

  1. 上司や部下の一言でモチベーションは変わる。近くにいる同僚だからこそ,やる気が削がれる場合も多くある。
  2. 「目線」すなわち「行動理由」を変えることでモチベーションを高める。その上で,自分の活動に対する理解者を,社内に作ることも重要。その方が,万一にもバッシングを受けた場合に耐えられる。
  3. 正当に評価できない上司は多くいる。その場合は,外部,例えばヘッドハンティング会社などに自分を評価させるのも一つの手。
  4. エンドユーザーのためを考えれば,耐えられる場合もある。ただし,技術者にとってみると,自分が携わっている「もの」を良くする,という動機の方が,モチベーションを高められそう。