上司が正当に評価できなければ・・・

木崎 では,他人の気持ちをリードする方法に,何かいい案はありますかね。

木村 上司が部下の気持ちをリードするためには,部下の能力を正しく評価することが第一かと思われます。いくら評価テーブルとかがきっちりできていても,評価する人に問題があれば,何にもならない訳ですから。

勝力 会社は社員を評価するにあたり,評価の公平性を高めたり,社員に求めるスキルなどを明確化したりするために絶対評価基準を作ります。時折,この絶対評価基準があいまいな会社を見かけますが,ある程度の規模を持つ会社は人も多くなり社長が全員を評価する事ができなくなりますから作るべきです。

木崎 上司はそれを定規にして部下を評価するのですから,会社としてできるだけ,しっかりした基準を作ろうと思いますよね。

勝力 部下からしてみれば,会社の絶対評価基準を元に正当に評価されれば不満は低減されるはずです。また,絶対評価基準は会社が社員に求めるものですから,社員は評価基準を元に次の目標を立てる事ができます。

大黒 まぁ,“正当に評価されれば”なんですけどね。

勝力 そうなんですよ,そこですれ違いが生じるんです。特に問題だと思うのは,会社の作った絶対評価基準に上司を照らし合わせて,部下なりに上司を評価してみた時,評価する上司が十分なスキルを持っていない,つまり,絶対評価基準で照らし合わせると上司のパフォーマンス自体が低い場合です。

木村 そうなっちゃうと,いくら絶対評価基準をしっかり作ったところで,何の効果も発揮しそうにないですね。

勝力 この場合,部下の立場からすると三つの不満が生まれます。まず,二つは以下のような不満です。
●上司が絶対評価基準に見合うスキルを持っていない,イコール,評価すべきスキルを理解できていないため,部下を評価できないのではないか。
●スキルのない上司についている以上,部下としてそのスキルを上司から学ぶ事が出来ないのではないか。
 もう一つは,上司自身がスキルを持っていないことから,評価方法が一定ではなく変動してしまい,結果として正当に評価されなくなる事から生まれるものです。
●上司がスキルを持ち合わせず,絶対評価基準が正しく理解できないため,つい自分自身のスキルを評価基準において評価してしまう。

木崎 よく「俺が若い時は・・・」とか「俺は~だったからお前にも・・・」という言葉を言う人がいますが,これはその表れなんでしょうか。

勝力 こういった発言は,本人にそのつもりはなかったとしても,結果として自分自身の過去を基準にして部下を評価している事になりますね。それは会社の持つ絶対基準評価ではなく,あくまでも上司の経験に対する相対基準評価となってしまいます。

大黒 そんな不満が出てくると,「上司が駄目だ」,「会社の方向性がわからない」,「ここでは自分は成長できない」,「正しく評価されない」――なんていう言葉が,部下から出てくるんでしょうね。

勝力 やっぱり優秀な人ほど,そう思いがちになるじゃないですか。上司が悪いという理由から,優秀な人材が辞めていったのでは,企業としては非常にもったいない気がするのです。

木村 この場合,どのような解決策があるんでしょうかね。

大黒 ちょっと乱暴なやり方なのですが,私は「ヘッドハンティングの会社に自分を売り込めに行け」と部下を焚きつけることがあります。会社では正当に評価されない,と思っているのなら,外部に見てもらえ,ということです。

木崎 結局,どんな結末が待っているのですか?

大黒 いや,本当にそれで転職したケースはないですよ(笑)。ヘッドハンティング会社と話しをする場合は,自分の経歴をすべて洗い出さなくてはなりません。その上で,実は自分が思っていた以上に自分の仕事に価値がなかったり,あるいは,価値のない仕事と思っていたのがジョブステップ的には凄く価値のある仕事だったり,と言った世間の基準をヘッドハンティング会社が明らかにしてくれます。まぁ,本当に価値があれば,その先に「どこどこの会社に年収これぐらいで転職しませんか」という話しがあるのですが,それとは関係なしに,自分の価値を知るのはよいことです。

木崎 そうすれば,嫌な上司に対しても違った態度で接することができますかね。自分の価値が分かった上で,その価値を分からせるようにアピールすれば良いのですかね。

大黒 少なくとも,ヘッドハンティング会社と話した部下は,多くが自分を冷静に見つめることができるようになって帰ってきますね。そういった意味では良いことと思います。

「ユーザーのため」が逃げ道になるか