影近 博 氏
写真:佐藤 久

 鉄鋼業界は,グローバル化が一気に進み,今や世界中がライバルです。世界規模の大会社や新興勢力である韓国や中国,こうした世界のライバルの陣容を見るとうらやましい限りですよ。優秀な人材はそろっているし資金も豊富。その資金をつぎ込んだ素晴らしい研究設備や試験プラントをそろえています。

 そこで考えるわけです。我々の強みは何だろうかと。僕は,JFEスチールで鉄の研究開発部門を担当していますから,それこそ真剣に考えます。そしてたどり着いた結論は,チームの力。組織としての対応力こそが我々の強みなのです。

 海外勢と日本では,研究者や技術者の行動パターンが違います。韓国や米国は基本的には個人主義なので,顧客から鉄鋼メーカーの担当者に「こういうことで困っている」と相談を受けても,情報はその担当者で止まってしまうことが多い。サンプル品を渡した場合でも,担当者だけが囲い込んでしまう。同じ社内の仲間にも黙っているわけですね。日本の場合は組織の中で情報が共有され,「どうするんだ,どうしようか」とみんなで一緒になって考えます。

 組織を重視することに対しては個人の才能をつぶすという批判もありますが,鉄鋼業は研究開発から生産までのプロセス全体を考えると,組織力が大きくものをいう構造になっています。

 というのは,鉄鉱石を溶かすところから,最終的に鉄の製品に仕上げるまでには,大規模で非常に長い工程があり,これを精緻に制御する必要があるからです。一部の工程でわずかな狂いがあっても製品品質を保てない。加えて,新たな製品をこの生産プロセスの中に組み込むには,研究開発部門と生産部門で密接な連携を取る必要があります。これらは個人の力だけでは無理。組織で問題や課題に対応することが不可欠です。まず調整すべき条件を特定し,どんな範囲で条件を設定したらいいか決めなければならない。しかも,長大なプロセス全体にわたって事細かにやる必要があります。こうしたノウハウが必要なので,海外勢が技術でキャッチアップするのは想像以上に難しい。10年たっても追い付かれないと言ったら怒られてしまいますが(笑)。