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コラム

挑戦しないと新技術なんてできない

ホンダ社長 福井威夫氏

2008/04/18 10:00
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福井威夫氏
写真:佐藤 久

 普通なら会社が大きくなるにつれて管理が厳しくなる。だんだん時間や予算の管理が厳しくなって個人の自由がなくなり,いちいち上司の了解を取らなければならない。しかし,これではダメ。社員が何もできなくなってしまう。

 ホンダの研究所はそうじゃない。決していいかげんなわけではありませんが,かなりの部分が個人の裁量に任されています。かつて私も相当に自由にやらせてもらった。すべてが勝手に決められるわけではないものの,「会社にとってこれが大切なんだ」と自分で判断すれば,かなりの確率でそのテーマの研究開発ができるのです。そのときはもちろん,会社のお金を使わせてもらう。報告するのは成果が出た後。お金を使った後に,「こういうものができました」とやるわけです。それが許される会社なんです,ホンダは。むしろ,そうでなければ新しい技術なんて生まれてきません。

99%は失敗してもいい

 バカな失敗はもちろん許されませんが,研究開発の全部が成功するわけでもありません。すごい技術なんてそうは簡単に生まれないことは,みんなが分かっている。失敗して当たり前。99%の失敗の中から1%がうまくいけばいい,という感じでやってもらっています。

 むしろ,ホンダでは「典型的に失敗した事例」をみんなで評価する制度すらあるのです。成功事例だけじゃなく,失敗したプロジェクトもきちんと完結させる。そして1年に1回,ホンダの役員が研究所に出向くイベントに,そうした失敗事例も展示します。「こんな面白いことに挑戦したけど,大失敗でした」と。失敗を笑うわけでも責めるわけでもない。「面白いねと」みんなでワイワイ言いながら,「次は頑張れよ」と評価するのです。普通の会社なら,こういった失敗を隠しちゃうでしょう。

 失敗に終わったプロジェクトだって,技術者が何年もかけて一生懸命取り組んできたもの。そのため,結果だけでなく,そのプロセスを非常に重視しようと考えています。ホンダは物マネをする会社ではないですから。失敗するぐらいのチャレンジをしていかないと,新しい技術は手にできないのです。

 ただし,研究開発と,クルマや二輪車などの商品開発には明確な一線があります。顧客に迷惑はかけられないから,開発した技術は徹底的に確認した上でクルマに応用する。新しい技術の開発とは違って,商品に搭載する技術での失敗は許されない。100%成功しないとダメです。この二つをうまく両立させていることが,これまでホンダが成長してきた理由でしょう。

――他社と似たような技術の開発プロジェクトの提案があったらどうするのですか。

 提案するやつはまずいない。たまには「マネてくれ」と言いたいくらいです。「無理するな」ってね(笑)。ホンダには物マネを毛嫌いする企業風土があります。本田宗一郎もマネをするのが大嫌いでした。だから徹底的にやったわけです。

――みんながF1マシンをやりたいってことはないのですか。

 漠然とやりたいと思って入社して来る人は多いでしょう。だけど,実際にやった人間は「もう二度とやりたくない。あんなに辛いものはない」となります(笑)。F1マシンに限らず,いろいろな技術への挑戦がありますよね。例えば,エアバッグの開発には18年かかりました。ずっとこれを担当してきた技術者がいます。開発当初は,そんなバカなっていうほど常識外れの技術でした。「もしぶつかったときに開かなかったらどうする?」「逆に,走っているときに開いたらどうする?」。そんなことを考えてしまう。それほど精度の高いコントロールができるのか,ということです。今では当たり前になりましたけれど,当時はとても無理でした。

 こうした長期にわたる開発プロジェクトはたくさんあります。20年や30年というと,会社に入ってきて,一人のエンジニアが一生をかけてやるわけでしょう? 一人の優秀な学生が入社して,そのテーマだけをやり続けるということです。最近では,二輪車向けに独自技術の新型自動変速機「油圧機械式無段変速機HFT(Human-Friendly Transmission)」を開発しましたが,あれなんか基本的には一人でやったものです。技術的には大変難しい。神がかっていますよ。

 燃料電池車は道半ばで普及にはまだまだですが,10年前から考えると,あそこまで最終ゴールに向かってステップアップできたというのは達成感があると思います。このほか今では太陽電池あり,バイオエタノールありですからね。

結果だけではなく,プロセスを重視

 失敗したプロジェクトにも日を当てるという話をしましたが,これは技術者の処遇や人事評価などに関しても,失敗を前向きにとらえるということです。もちろん,バカな失敗は分かりますから問題外。しかし,新しい技術への挑戦では「成功するか分からないがやってみよう」というのがありますよね。そのプロセスを重視するんです。結果も重要ですが,結果だけじゃない。プロセスです。人間は必ず失敗するのであって,その失敗をどうやって次に生かすかということがカギになります。それにはプロセスをきちっと評価しなければいけない。

――プロセスを客観的に評価するということはかなり難しいのでは。

 いや,難しくはないです。常に現場に行って見ていれば分かります。日々どういう態度でどのように仕事をしているかに,きちんと目を配っていればね。結果だけを見て判断する方が,よほど難しいんじゃないですか。

プロフィール
福井威夫(ふくい・たけお)
 1944年生まれ。1969年4月ホンダ入社。ホンダレーシング社長、米Honda of America Manufacturing社社長、本田技術研究所取締役社長を経て、2003年ホンダ取締役社長に就任。

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