今回は、ある素材メーカーでの技術者にかかわるエピソードを紹介致します。それは材料の強度物性を毎日測定している現場で起きた「ちょっとしたいい話」です。衝撃強度という言葉をご存知でしょうか。一口に材料の強度物性と言っても色々な評価指数がありますが、衝撃強度とは高速で外力を加えた時に素材がパキンと割れてしまう時の破壊限界強度を指します。同じように硬い素材でも、脆いものと粘る強靭なものがありこの違いを見極めるために衝撃強度を測定するのです。シャルピー強度とかアイゾット強度と呼ばれる国際規格があります。

 このエピソードを説明するために必要なので、測定装置のメカニズムについて簡単に説明します。測定用のテストピース、これはちょうどチューイングガムとかUSBメモリーのような寸法の長細い板状のものですが、これを立てた状態で固定します。測定器の台上にテストピースの下半分を埋没させたかっこうでしっかりと動かないよう固定し、上に出ている部分にハンマーと呼ばれる測定アームを振り下ろします。ハンマーは振り子のようになっていて、その先端部が真下に来た時にテストピースを打撃するようになっているのです。

 ゴルフのスイングをイメージしてみてください。ティーショットをダフり気味に打つとティーが真ん中から折れてしまいますね。あの感じです。テストピースに命中してパキンと破壊したのちフォロースイングし続けて、どのあたりまでハンマーが上昇したか、その高さを測定することで衝撃強度は算出されます。全く割れずに頑張れば、ハンマーは真下で止まり、抵抗なく簡単に割れればハンマーはスタートとほぼ同じ角度まで持ち上がることになります。

新鋭機器を導入したものの

 さて、物語はここから始まります。素材開発の現場ですから、素材の組成比を変えたものや、加工条件がちょっとずつ異なる膨大な数のテストピースを毎日評価し続けていました。衝撃強度の測定作業は意外に汗をかく力仕事です。重いハンマーを持ち上げてセットしては、パキン、またテストピースを取り換えてはハンマーを持ち上げて、という操作を何十回も何百回も繰り返すという単調な作業の連続です。