「皇居前で切腹しろ」

 もちろん、すべての技術者が泣き寝入りしたわけではない。それを不服とし、自らの専門技能を生かすべく会社を辞めていった人たちがいた。多くの技術者の証言によれば、その大きな受け皿になったのが韓国メーカーだった。こうした人材を大量雇用することで、韓国メーカーは日本メーカーが蓄積してきた技術やノウハウを、短期間で習得することができたのだという。その結果として、日本メーカーの半導体部門はさらなる苦境に立たされることになるのだが。

 一言でいえば、横並びの弊害である。半導体の権威である東北大学の大見忠弘教授に言わせれば、「それは経営者が頭を使わないから」ということになる。かつて大見教授は、このように嘆いておられた(日経ビズテックno.1参照)。

 「かつて絶大な人気を誇っていた電子系の学科は、今や理工系学部の中でも最低ランクですよ。その卒業生も、せっかく何年も電子工学を勉強しながらエレクトロニクス・メーカーには行きたくないという。誰がこんなことにしたのか。もちろん、歴代経営者の責任です。トップになるほど頭を使わなくなるようですな。本当のことを言う実力のある部下を左遷し、上司の顔色をうかがう調整型の部下ばかりを周りに置くからでしょう。そんな経営者は全員、皇居前で正座して腹を切れと言いたい」

 頭を使わないから、自分では決められない。だから、周りに合わせて自身の進路を決めてしまう。こうして、みんなで沈没していったというのが大見教授の指摘である。こうなれば、技術者は「自分の専門を生かすために会社を変える」というチャンスさえ奪われてしまう。海外にでも打って出ない限り、自身の技能を生かすべく会社を辞めることもできなくなるのだ。

 そんな話を現役の技術者にしてみたら、「いろいろあったから、昔とは随分変わったと思いますよ」と言われた。「オンリーワンとか独自性とか、そんな言葉が会議で出てくるようになっただけでも進歩でしょう」と。

やっぱり辞めるしかない?

 その一方で「あんまり変らないね」との声も聞く。最近、ある大学教授から聞いた話である。「よく国のプロジェクトや企業との共同研究を提案するんだけど、そのとき必ず聞かれることがあるんですよ。それは、『類似研究はあるか』ということ。米国では、このとき『ある』と答えたら提案は通らない。すでに他でやってることなら、うちでやる必要はないというわけです。けれど、日本では必ず『ある』と答えなければダメ。相手が国でも企業でも、『類似研究は盛ん』と言わないとテーマとして認めてもらえない。その風潮は、今でもあまり変わらない」