焦点は物理フォーマット

 実は両陣営の規格は似通い始めている。ハリウッドの要求を満たす中で,同一の方式を採用する部分が多くなった(図7)。具体的には,BD―ROMもHD DVD―ROMも著作権保護方式として「AACS(advanced access content system)」を採用する6)。論理フォーマットのうち,ファイル・フォーマットにはUDF(universal disk format)2.5を採り,映像の符号化方式は,MPEG―2,H.264/MPEG―4 AVC,VC―1(旧称:VC―9,Windows Media Video 9の別称)でそろった。


図7 似通う再生専用媒体規格
ここにきてBlu-ray DiscとHD DVDの再生専用媒体規格は似通いつつある。著作権保護方式と論理フォーマットで共通点が増えている。

 両陣営が譲れないのは,物理フォーマットである。Blu-ray Discは将来を見据えて大容量化を優先し,記録面を覆うカバー層を0.1mmと薄くする方式を採った。HD DVD陣営は当初からの低コスト化を重視して,DVDと同様なディスク構造を採用した。

 片や大容量,片や低コストという両者の主張は決して相容れないものではない。むしろ両者が規格統一を前提に歩み寄れば,容量,コスト共にさらに優れた解が見つかるはずである。例えば,両者の技術を組み合わせれば,記録容量を今以上に高めることができる。装置や媒体の製造コストも,市場を二分する代わりに両陣営が同じ規格を手掛けた方が早期に削減できる可能性がある。

 もちろん,両陣営が物理フォーマットを譲れない理由の1つに,これまでの開発や設備投資が無駄になりかねないことがある。この点も話し合いによって解決可能なはずだ。物理フォーマットを譲った企業にもライセンス料の一部を還元するなど,やり方はいくらでもある。

拡張規格として取り込む

 両者の物理フォーマットを統合する可能性を考えたとき,細かな組み合わせは無数にあるが,大枠は次の2つだろう。1つは,両方の規格を取り込んで,実質的に使う規格を1つに絞る方法だ。例えば,HD DVDの物理フォーマットとBlu-ray Discの物理フォーマットの両方を取り込んだ規格をつくり,一方をオプションまたは拡張規格とする。

 もう1つは,両方の技術の中から要素技術を取り込んで,1つの新規格をつくる方法だ。例えば,ディスク構造をBlu-ray Disc規格で採った0.1mmカバー層方式として,HD DVD規格で導入したPRML(partial response maximum likelihood)などの技術を組み合わせる。この2つを組み合わせればディスク片面単層の記録容量が35Gバイト程度に高まる可能性がある。

 現在,Blu-ray Disc規格でPRMLを使って容量を高める検討が具体化しているわけではないが,光ディスクの国際会議では,こうした技術を使ってBlu-ray Discの容量を30Gバイト以上に高める発表が増えつつある。「指紋耐性などを犠牲にしない画期的な技術なら,Blu-ray Discに取り込むことで統一,ということはあり得るかもしれない」(松下電器の田中氏)。「Blu-ray DiscがPRMLを採用する,という方向で規格を統一できる可能性はないではない。だが,HD DVDが最善と考える我々は,話を切り出す立場にない。統一が成るとすれば,仲裁者が必要だ」(NEC 第一ストレージ事業部 統括マネージャーの早津亮一氏)。両陣営に歩み寄りの余地はまだ残されている。