一歩も引かない両陣営

 両陣営が互いに譲らないのは,自ら策定した規格に絶対の自信を持っているからだ(表1)。Blu-ray Discの売りは大容量。片面単層媒体で25Gバイト前後,片面2層媒体で50Gバイト前後とHD DVDよりも大きい。「これから10年先を見据えた光ディスクを考えた場合,ここで新たな大容量技術を導入しておくべき。Blu-ray Discが最適解だ」(松下電器産業 メディア制御システム開発センター 所長の田中伸一氏)。


表1 Blu-ray DiscとHD DVDは一長一短

 対するHD DVDは,現行DVD技術の流用による低コスト化とDVDからのスムーズな移行を強調する。DVDと同等のコストで製造できるため,市場の立ち上げ時に高コストのBlu-ray Discを大きく引き離せるという。「HD DVDの利点は同じ製造設備で現行DVDも製造できること。DVDの製造設備の増強に合わせてHD DVDの製造ラインを築ける。ディスク構造の異なるBlu-ray Discは製造難易度が飛躍的に高まる上,新規ラインを導入しなければならない」(東芝 デジタルメディアネットワーク社 執行役員待遇 首席技監の山田尚志氏)。

 両陣営はどちらの見方が正しいかの判断は市場に委ねるしかないと考えているようだ。市場での競争の結果,より多くの支持を集めた規格が生き残るというわけだ。競争でよりよい規格が選ばれるため,事前に相手に歩み寄って競争を阻害するのは適切ではないとみている節もある。「強引に規格を統一して,ユーザーの利益が向上しない場合,独占禁止法に抵触する可能性があるのではないか」(Blu-ray Disc関係者)。


図2 誰も得はしない
規格が分裂した場合,コンテンツ・プロバイダーがパッケージ媒体の投入を控える,ユーザーが製品の購入を見送る,機器メーカーの量産効果が上がらないという悪循環に陥りやすい。この状態が続く限り市場の順調な拡大は望めない。規格争いの帰趨が決しても三者三様に不利益を被る。

分裂で市場の立ち上げが遅く

 こうしたメーカー側の主張には,必ずしも説得力がない。そもそも,規格の優劣を決め得るほどの市場がすぐに立ち上がる保証がない。むしろ規格が分裂したままだと,市場の成長は滞る可能性が高い。

 再生専用媒体の市場を立ち上げるには,コンテンツ事業者の協力が不可欠である。2つの規格が並立すると,この協力を得難くなる。現にハリウッドの映画スタジオは2つの規格のパッケージ媒体を手掛けることに難色を示してる。「2つの規格が併存するなら大きなチャンスはない。快くコンテンツを出すことはできない。出すとすれば,各陣営からの金銭面での援助が必要だ」(米MGM Home Entertainment,President and CEOのDavid Bishop氏)。「コンテンツの販売事業部は,1つの作品で2つの製品ラインを用意しないといけないことを非常に懸念している。彼らはこれが結果的に市場の成功を妨げると考えている」(米Twentieth Century Fox Home Entertainment,Inc.,Executive VP MarketingのPeter Staddon氏)。

 コンテンツが出そろわなければ,当然ユーザーの買い控えも起こる。仮にそれぞれの規格で・・・