大切なデータの保存に不安

 こうした普及のシナリオを見据えれば,次世代光ディスクのあるべき姿は明確になる。まずは,現行HDDレコーダの課題を完全に解消することである(図3)。HDDレコーダを使う場合,ユーザは大きく分けて二つの不安に耐えなければならない。データ保全性に対する不安とパッケージ・ソフトが再生できないという不安である。

 ユーザにとってHDDの最もやっかいな点は,クラッシュや故障時にすべてのデータが復旧できなくなる点である。VTRカセットや光ディスクなら媒体を取り出せるため,少なくともほかのコンテンツには影響がないし,取り出した媒体からデータを復旧できる可能性もある。

 HDDでは,こうした修復はまず望めない。しかも,HDDは大容量のバッファ・メモリとして働くので,次世代光ディスク装置やVTRに比べて稼働時間が圧倒的に長くなる可能性が高い。それだけ壊れやすくなる。録画装置には,一時的に記録しておくニュース番組や天気予報などに加え,データ放送などから得た有償のコンテンツ,子供の成長記録などの大切なデータも記録する注3)。そのたびに,データが消えるかもしれないという,従来には感じなかった不安をユーザに強いることになる。

 一方でHDDの容量は増え続けることになるだろう。記録容量が増えることは利便性を高めるが,同時にクラッシュしたときのリスクをも高めていく。溜めたものが多くなれば,それだけ多くのものを失うことになるのだ。

フォーマットで全部消える

 故障が起きなくても,ユーザがデータをすべて消去しなくてはならない状況は起こり得る。たとえば,データのフラグメンテーション(断片化)の解消が必要になった場合である。HDDでは,録画や上書きを繰り返すうちに連続した空き領域がしだいに減り,一つのファイルがバラバラに格納されるようになっていく。こうした断片化があまりに激しく起こると,シーク動作の回数が増えてシーク音が増すほか,コマ落ちのない録画や再生を保証できなくなる可能性さえある。


図3 HDDレコーダの不安要素を補い,さらに光ディスク独自の付加価値を加える
HDDレコーダだけではVTRユーザの要求をすべて満たすことはできない。機器メーカは,HDDレコーダと次世代光ディスク装置を組み合わせることによってお互いの欠点が補い,さらに光ディスク独自の付加価値も享受できる次世代レコーダを目指す。(図:本誌)

 2000年8月からHDDレコーダ「Clip-On」の発売を予定するソニーも,この点には頭を悩ませた3)。同社によると断片化が起こりにくいファイル・システムを採用するほか,ひどい断片化が起こっても記録再生を保証できる設計にしたという。

 それでも断片化が気になるユーザには「HDDをフォーマットしてもらうしかない。パソコンのようにデータを再配置するプログラムを組み込む手もあるが,処理に時間がかかり過ぎると判断した。いつでも録画を始められることが売りのHDDレコーダでこの仕組みを取り込むことは難しい」(ソニー ホームネットワークカンパニー ネットワークエンタテインメント事業本部 商品企画部 ネットワークビジネス企画課 係長の長坂満氏)。

高画質,長期保存に課題