三洋は今、エネルギーと環境に資源を集中させていると聞く。それならば、何故家電や半導体といった一度は売却を考えた事業を強い意思で切り離すことを考えないのだろうか。こうした戦略の混在が、企業全体の戦略を不明確なものにしているのではと危惧するのだが。

 三洋は総合家電メーカーとしてその地位を築いてきたが、ソニーや松下といったトップブランドではない。技術力は高いが、右肩上がりの時代、即ち作れば売れた時代に取ってきた戦略にいまだ縛られているのだろう。市場が拡大していたあの時代は、他社と同じ事をしていればよかったが今は違う。経営資源を他社と差別化できる事業分野に集中させて、究極の製品やサービスを求めなければブレイクアウトは手にできない。私には三洋はブレイクアウトを自らあきらめているように思えるのだ。

 そのかたわらで、ブレイクアウト戦略を採ろうとしている企業にソニーがある。最近ソニーは最新の半導体製造ラインの売却を決めた。過去に取った戦略をあっさり捨てたのだ。ソニーはいろいろと注目されているが故に批判にもさらされている企業だが、失敗だと思ったら潔く戦略を修正する潜在力、ダイナミズムが存在している。これを支えているのはやはりリーダーシップと組織の柔軟さではなかろうか。ソニーは常にブレイクアウトを求め、常に大胆に戦略を修正していく。その戦略が組織を再活性させるという好循環を維持しているように思える。

 Googleと三洋の話に戻ろう。これまで述べてきたように、様々な条件により生み出された二つの企業の戦略の違いが、彼らの将来像をさらに大きく変えることになると思う。何故なら、ブレイクアウトを生み出す戦略を取れるかどうかが、企業の将来を左右する大きな要因になるからだ。

 前述のブレイクアウトストラテジーのサイクルをうまく回して、ブレイクアウト戦略を生み出すためには、明確で強いビジョンと柔軟な組織が必要になる。そしてもう一つ、リーダーシップが欠かせない。これらが相互に関係し影響を与え、循環することが重要なのだ。

 繰り返しになるが、企業は「まず戦略ありき」で戦略を立て、実行し、それをフィードバックし、次のビジョンやコンセプトを作り上げるという活動を日常的に行う責務を負う。その中で、組織はそのビジョンや理念に少なからず影響を受けて事業や製品のコンセプトを作ることになる。そして、このビジョンやコンセプトを作る「人・組織」は戦略実行時に、さらに調整されるのである。

 これを繰り返すうちに、「人・組織」の生み出すビジョン、コンセプト、そして戦略は企業ごとに違った特徴を獲得することになる。その結果、Googleと三洋の例のように、それが生み出す戦略の内容が大きく違ってくるのだ。

「優れたリーダー」あればこそ

 これらを理解して、ブレイクアウト戦略に一歩踏み込む勇気が企業のリーダーには欠かせない。ブレイクアウトができるかできないかが、これからの生き残りに多大な影響を及ぼすからだ。前述のブレイクアウトストラテジーのサイクルにおいて、戦略の策定、実行、フィードバックといったサイクルの各プロセスに対してリーダーシップが影響を与えているのはこのためだと思う。

 プロデュース・テクノロジー開発センターというNPOが京都にある。ここでは、「プロデュース」を「何かを思いつくこと」ではなく、「その思いつきを具体的に世に出し社会化するまでの一連の行為」と定義する。そのうえで、このような「プロデュース」行為を、再現可能な「テクノロジー」として手法化し、新たな人材育成プログラムとして研究・開発を進めている。

 この手法を用いて組織の各部門別にプロデュース点をつけ、組織のプロデュース力を客観的・定量的に評価しようとする試みも行われている。同センター代表の渡辺好章同志社大学教授によれば、プロデュース点の高い企業、組織には必ず優れたリーダーが存在するという。優れたブレイクアウト戦略のためには、優れたリーダーは不可欠なのだろう。

「強襲型」戦略を取る成長期の企業だけでなく、「巻き返し型」戦略を成功させた停滞期や衰退期の大企業でも優れたリーダーの顔が見えることが多い。優れた戦略の遂行サイクルの中から優れたリーダーが育ってくるようになれば組織として理想的だが、日産のように外部から優れたリーダーを招き入れ「巻き返し型」戦略を成功させた例もある。

 ただ、それも戦略あってのこと。優れた戦略を生み出すことが企業活動の全ての原点であることは間違いない。

著者紹介

生島大嗣(いくしま かずし) アイキットソリューションズ代表
大手電機メーカーで映像機器などの研究開発、情報システムに関する企画や開発に取り組み、様々な経験を積んだ後、独立。既存企業、ベンチャーのビジネスモデルと技術の評価、技術戦略と経営に関するコンサルティング、講演などに携わる。現在は、イノベーション戦略プロデューサーとして活動している。生島ブログ「日々雑感」も連載中。執筆しているコラムのバックナンバーはこちら

本稿は、技術経営メールにも掲載しています。技術経営メールは、イノベーションのための技術経営戦略誌『日経ビズテック』プロジェクトの一環で配信されています。