この連載の目次はこちら

――國井さんは,米国に留学中から子育てをしながら,ソフトウエア会社をつくったりなさっていたとか。

國井 秀子さん
リコー
常務執行役員
ソフトウェア研究開発本部 本部長
國井 秀子さん(1982年入社)

國井 当時から,米国には女性が仕事や勉強を続けるためのサービスが整っていました。お金は掛かりますが,保育園でもベビーシッターでも何でもありました。朝早く授業を一つ受け,昼間は仕事をして夜にまた授業を受けると,1年で修士を取れるシステムなどもありました。そろそろ日本に帰ろうと思っていた時,この会社に声を掛けていただいて。当時はまだ女性の専門職の採用が少なかった時代なのですが,インタビューしてくれた役員の方が非常にリベラルな考えの人で,「専門家として仕事をしてほしい」とだけ言われました。

――その後,研究者,研究マネジャーとして活躍なさる一方で,女性技術者の問題にも携わってこられた。日本で女性の技術者や研究者が少ない理由は何だと思いますか。

國井 文化的なもの,教育的なもの,親の見方,日常生活の中のちょっとした表現など,いろんなものが重なっていると思います。ついこの間まで,中学生になると男子と女子で職業教育と家庭科に分かれていましたよね。男性は仕事,女性は家庭という考え方を定着させる教育だったんですよ。それは簡単に変わらないです。今の親はみんなその世代ですから。日本の女性は優秀な人でもほっておくと上昇志向が非常に低いんです。出産とか育児とか時間的な制約が引け目になって,積極的に前に出られないんですよ。その結果,女性というグループ全体の評価が下がり,それが差別を生みやすくしている。女性を差別しているなんて考えている人は今の日本の大企業には一人もいないと思うんですが,部下のキャリアに対する指導などの場面で,いつの間にか差別を生んでいます。優秀な女性には責任のある仕事を与えるべきなのですが「家庭が大変だろうな」と,どうしても小さな仕事をアサインしてしまう。

――それに対して,いろいろなチャレンジをなさっている。

國井 パイオニア的な女性が実績を出して,それを見た人が「そういう形なら私にもできるかも」と思い始めれば変わると思うんですよね。でも,管理職の人は実績のない女性に大きな仕事を与えにくいという問題がある。大事なのは「女性だから」というようにひとくくりに考えず,あくまで個人としてキャリア・プランを一緒に描くことだと思います。

――瀧川さんは出産,育児を経験されているんですね。

瀧川 みな子さん
リコー
ソフトウェア研究開発本部
セキュリティ研究所
情報セキュリティ研究センター
瀧川 みな子さん(1998年入社)

瀧川 ここはリコーの研究部門の中でも一番女性が多くて,私が入社したころには先輩の女性はみんなお子さんがいて「ああ,女性でも普通に仕事できるんだ」という認識でした。私も子供を一人産みましたが,ちょうど1年間休暇を取って復職しました。よく,休んでいる間に会社に戻りたくなくなる人もいると聞きますが,私の場合は,逆に早く会社に戻りたかったですね。ホントに子育て中は昼も夜もないので,大人相手に仕事をしていた方がずっといいなと(笑)。

――休暇中,仕事から離れていて不安になりませんでしたか。

瀧川 休んでる間にいくつか新しい出来事が起きて,ちょっと戸惑うようなことはありましたが,技術の根本は変わりませんので特に不安はありませんでした。休暇中も会社のネットワークとつながっていましたから,メールも来ますし社内情報もちゃんと分かります。時には,私が育休に入っていることを知らない人から,ずいぶん前にやった仕事のサポートでどんどんメールが来て,その都度,すごく長いメールを返したりして,これってお給料出ないのかしらなんて思ってました(笑)。

――瀧川さんの今の目標は。

瀧川 自分なりにキャリア・パスをつくろうとしているんですけど,技術の先が見えなくて難しいですね。5年後くらいは見えても10年後にどんな仕事をしているかはなかなか分からない。ただ,技術者としては,ある分野で分からないことがあったとき,社内で真っ先に名前が挙がるような存在になりたいなとは思ってます。


●研究者に占める女性割合の国際比較
出典:内閣府,「男女共同参画白書」,2007年.

●世界経済フォーラムによる「男女間格差のランキング」
労働参加率,賃金,所得,議員/行政職/管理職専門職/技術職の数,大臣クラス経験者数,識字率,就学率,出生率,健康余命などを基に算出した男女格差指数で,世界115カ国を比較したもの。
出典:World Economic Forum, “The Gender Gap Index 2006 rankings,”Global Gender Gap Report 2006.

オフィスは,大学の研究室を思わせるような自由な雰囲気。リコーの研究部門の女性比率は15%という。セキュリティ研究所には外国人の社員やインターン生も多い。キャビネットに張ってあるのは,化粧回しを着けた関取のイラスト(写真の左上)。目的があって張ったわけではないが,これが意外にも外国人とのコミュニケーション・ツールになっているという。