技術経営 技術者が知っておきたい経営と市場の最新情報
 

かくして家電は炎上する

神足裕司
2006/12/20 22:33
印刷用ページ

 週刊『東洋経済』の12月23日号によれば、家電は炎上しているのだそうだ。副題には「薄型テレビ全面戦争の内幕」とある。仁義なき価格戦争の泥沼を、こう表現しているらしい。

 久々に薄型テレビ売り場を訪ねたら、なるほど炎上していた。なに、量販店の前で昔の彼女に偶然出くわしただけの話だが。いっしょに、今度買うテレビを見てくれと言う。詳しいでしょと。

 詳しいつもりでいたのだが・・・。

 売り場に入ってすぐディスプレイされていたのはシャープのアクオスだ。今や液晶画面のエキスパートがシャープだという事は誰でも知っている、のだろうか。「亀山」とポップアップに書いてある。亀山工場なら知っている。でもそれがなんでブランドなの?

「日本製だという意味です」

 売り場の販売員が答える。今から注文しても年内の納品は無理だそうで、それほどの独占マーケットなら他の家電メーカーはあきらめそうなものだが。日本の場合そうではない。松下電器産業にはCMキャラクター小雪の巨大なポップに負けない、58V型のプラズマテレビがある。プラズマ4機種、液晶32型1機種を松下電器はこの年末投入したのだそうだ。ソニーはブラビア計8機種。そして奥のほうにひっそりと東芝レグザがある。

「玄人好みなのは、レグザだって技術さんが言うのよ」

 テレビ局勤めの彼女が言う。お目が高いとでも言うように、店員が脇の回路シールを指す。

「デジタル回路部分が各グレードで同じく高品質なのはレグザだけなんですよ。だからあとは、装備の違い。テレビの後ろ側にハードディスクがついていまして・・・・・・」

 同じだと思っていた薄型テレビが、各社でずいぶん違いがあるとわかってきた。わかったはいいが、しかし、だんだん説明を聞くのが苦痛になる。

「ソニーで比べてみます? ソニーは各グレードで差があります」

 なるほど。ソニーは40型と46型で1920×1080のフルスペックハイビジョンパネルを搭載している。店員は動画色空間の国際標準規格“xvYCC”に初めて対応している、などというが、意味するところがわからない。いや、イカの赤ちゃんが映っているのを比べると、確かにxvYCCはすごいような気がしないでもない。

「だからブルーレイが必要だというわけですよ」

 なるほど。売り場の各社テレビが映し出しているのはHD(高精細)のハイビジョン放送だが、HDでない映画のDVDをかけている画面は見劣りがする。

「こっちは松下が作った比較用のVTRです。残像がないでしょう?」

 中心に線のはいった画面で女性がブランコに乗っている映像が流れる。なるほど。ゆらぎがない、ような気がする。

「1秒に90回点滅しているからです。シャープはやらないそうですが」

 彼女の目が三角になった。わからない物に出会って深刻になるときの癖だ。回路があって、世界規格があって、裏技がある。戦車と戦闘機と軍艦を比べているようなものだ。現行の薄型テレビを理解するにはファイナンシャルプランナー並の知識を持ったアドバイザーが必要なようだ。ソニーは黒が美しい、とか単純に言えた良き時代が懐かしい。

 いかにも付け足しだが、このコラムのテーマ、これでは世間があいまいになっていくのも仕方ない。画面はどれも美しく、素人の我々にはどれでも文句はないのだから。

 家電は、勝手に炎上しているのだった。

【注】このコンテンツは、以前に日経ベンチャー経営者クラブのサイトで「美しくて、あいまいな日本」というコラムの記事として公開されていたもので、Tech-On!に再掲いたしました。

著者紹介

神足裕司(こうたり・ゆうじ)
1957年広島生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。筒井康隆と大宅壮一と梶山季之と阿佐田哲也と遠藤周作と野坂昭如と開高健と石原裕次郎を慕い、途中から徳大寺有恒と魯山人もすることに。学生時代から執筆活動をはじめ、コピーライターやトップ屋や自動車評論家や料理評論家や流行語評論家や俳優までやってみた結果、わけのわからないことに。著書に『金魂巻』『恨ミシュラン』あり。

【技術者塾】
実践で学ぶ!システム設計力強化トレーニング(9/2・3開催)

~複雑化する製品の設計情報を見える化し、品質向上と開発効率化を実現~


システム・サブシステムにおいて、要求⇒機能⇒実現手段の順に段階的に設計案を具体化しながら、各段階において異分野の技術が相互に与える影響や背反事項のすり合わせを行うことが重要です。また、元々日本企業が得意なすり合わせをより効率的・効果的に行うために、設計情報を見える化し共通言語とすることが必要です。これらにより、システム目標の未達や見落としを防ぎ、品質向上と開発効率化の実現を目指します。詳細は、こちら
日時:2015年9月2日(水)・3日(木)
いずれも10:00~18:00
会場:京王品川ビル セミナールーム(東京・品川)
主催:日経テクノロジーオンライン
コメントする
コメントに関する諸注意(必ずお読みください)
※コメントの掲載は編集部がマニュアルで行っておりますので、即時には反映されません。

マイページ

マイページのご利用には日経テクノロジーオンラインの会員登録が必要です。

マイページでは記事のクリッピング(ブックマーク)、登録したキーワードを含む新着記事の表示(Myキーワード)、登録した連載の新着記事表示(連載ウォッチ)が利用できます。

協力メディア&
関連サイト

  • 日経エレクトロニクス
  • 日経ものづくり
  • 日経Automotive
  • 日経デジタルヘルス
  • メガソーラービジネス
  • 明日をつむぐテクノロジー
  • 新・公民連携最前線
  • 技術者塾

Follow Us

  • Facebook
  • Twitter
  • RSS

お薦めトピック

日経テクノロジーオンラインSpecial

記事ランキング