製造業は,寸法や図面などさまざまなデータを基にものづくりを進めてきた。ものづくりに携わる人々は,時には2次元的の図面をよく観察してそこに潜むあらゆるデータを解読,頭の中で3次元の形状を作り上げ,そこに隠されているデータの整合性を読み取ってきた。すなわち図面や表の2次元データを脳内でモデリングし,3次元データとして活用してきたのだ。特に実際にものを生産する工場などの現場では,その卓越した技能を持った人々が活躍している。

図1●一般的な製造業の工程の流れと必要とされるデータの例
図1●一般的な製造業の工程の流れと必要とされるデータの例 (画像のクリックで拡大)

 では,そのようなものづくりの現場にいる人々にとって,使える3次元データとはどの様なものなのか? 理想的に言えば,生産に至るまでの各プロセスで使用した3次元データを,そのまま利用できることが望ましい。コンセプトデザイン,製品設計,生産準備そして生産が,一貫した3次元データのやり取りで遂行できる(図1)。各工程に関わるプレーヤーが同じ3次元データ,同じ3次元ツールを使えれば,ものづくりを粛々とすすめられる。

 ところが現実には,各段階で特異な要件が発生する。このため,前工程で作られた3次元データには,必要な要件が不足していることがままある。精度,形状などの情報はもとより,その3次元データの活用方法もまちまちだ。本当に使える3次元データとは,その工程で働く人々の技能,目的,手法により要件が変わっている。

 多くの人々が関わる生産の現場において,意思統一を図るツールとして,3次元データが非常に期待されているのは間違いない。従って,製造現場で本当に必要な3次元データとは,設計者の意図が正確に分かるとともに,生産現場で作業する多くの人々の意思が統一できるコミュニケーション機能を持ったものだと言える。

 製品の品質を維持,向上するためには,生産をする人々が,設計をする人々の要件を読み取り,実際に動けなくてはならない。また,現場同士がコミュニケーションできる機能を備えていれば,ものづくりの現場で発生している問題を,設計をしている人々にフィードバックすることもできる。3次元データを利用してこのようなことができれば,上流工程となる設計データから品質向上が可能となる。

 また,昨今話題になっているが2007年問題における優秀な技能者の退職における技能の低下及び品質の低下を防ぐ為にも,このような3次元データは有効である。3次元データと3次元ツールを利用してコミュニケーションが円滑に行えれば,ものづくりの精度とスピードを確実に上げられる。

 3次元データは,最近流行りであるPLMの中核ともいえるが,今以上にその工程と現場に合った3次元データを活用すれば,新しいPLMの流れを作り出す事ができるようになるだろう。本当の3次元データの利用は,目的をはっきりとし,関わる全員の意思統一が図られるツールであり,管理が可能なデータとなる。

 これまで,どちらかというと製造現場は3次元データに振り回されていた感があった。これからは,3次元データに使われるのではなく,使いこなす技能を持つ必要がある。そのためにも,適切なツール選びは重要だ。

図2●Acrobat 3Dに注釈を付けた画面例
図2●Acrobat 3Dに注釈を付けた画面例 (画像のクリックで拡大)

 例えば,製造現場に有効なツールの一つと筆者が感じているのが「Acrobat 3D」(アドビシステムズ)だ(図2)。その理由は無償で手に入れられるビューワ・ソフト「Acrobat Reader」があれば閲覧できるということとともに,コメントなどの追加も簡単にできるからだ。

 次回からは,製造現場で使える3次元データ,3次元ツールにはどのようなものがあるのかに踏み込むと同時に,有効に活用していくためには,どのような仕組みを構築するべきなのかなどについて解説していく。