そのゲームというのは、「信長の野望・天下創世」である。その中で多くの大名や武将が登場するのだが、彼らは「政治」「統率」「教養」「知略」などの項目で能力値をもっている。そのなかで、戦闘での「強さ」を決める重要な能力が「統率」。だが、もう一つ重要なパラメータに「士気」というものがあって、これが低い状態だと、いくら能力値が高い武将が多くの兵を率いていても無残に負けてしまったりするのだ。

 推参ながらもう少し詳しくいえば、士気は常に変動する。つらい行軍や戦闘を続けているとみるみる下がるが、本陣に帰って休息をとれば回復する。敵の砦を攻め落としたりすれば、戦闘開始時の高い状態をさらに超えて大いに士気が上がり、攻められる場合も、籠城戦を選択すれば士気が高い状態になる。この現象を企業に当てはめれば、無理に働かせれば士気は下がるが、休養をとってもらえば回復する。さらには、業績が上がって会社全体に勢いがあるときは社員の士気も全体に上がって思わぬ成績を残すし、逆に危機的状況に置かれた場合もがむしゃらな働きを示す、ということか…。

士気を数値化?

 何より指揮官、つまりプレーヤーとして重要なのは、各武将の士気値に目を配って、前線で戦う武将のそれを常に高い状態に維持していくことである。もちろん戦闘に臨む際には、まず能力値や功績値を考慮しながら武将を選ぶ。だが、それをいったん決めてしまえば、あとはこの「士気のコントロール」が最も重要な仕事になるのだ。

 「フォロワーシップ」を原則とする会社経営とはこのようなものかもと思う。そういえば、弊社の何代か前の社長は「信長の野望」シリーズの熱烈なファンだったそうだ。やはり、このゲームと会社経営の不思議な相似関係について思いをめぐらせながらプレイをしていたのだろうか。

 ただ、いかにゲームがリアリティーを求めるためにうまく人間心理を反映していようと、やはりそれは極度に単純化されたものに過ぎない。本物の人間は、もっと圧倒的に複雑な存在なのだから、本当の企業経営はゲームなどとは比べられないほど難しいはずである。

 ほんの一例を挙げれば、人の士気やモチベーションなどというものは、ゲームのように数値で第三者がうかがい知れるものではない。「見える化」がハヤりだからか、それを数値化する方法も提唱されていると聞く。だが、私はそれをあまり信じる気にはなれない。

 実際、士気などというものは、「100点満点で何点」とか問われても、当の本人ですらよくわからないもの。それを無理やり「何点」などと評価すること自体が、そもそも「管理よりやりがい」というフォロワーシップの原則に反しているのではないか。そんなことを考えているのである。