内製から購入への切り替えタイミングが遅かった

A氏 どんな技術,産業だって最初に立ち上げる時には誰も作っていないわけだから,製造装置を内製するしかないですよね。しかし,技術が進歩して複雑化,専門化し,産業規模が大きくなってくると,かならず独立系の装置メーカーが登場して,主導権を握るようになります。独立系の装置メーカーには,各社の情報が集まってくるし,量も出ますから必然的に強くなる。そうなると,先行メーカーはある時点で,内製から購入に切り替えなければならない。日本メーカーは,米国に比べて,その切り替えが10年~20年は遅れたと思いますね。

C氏 もう一つの問題は,日本の半導体メーカーは,グループ内に装置メーカーを持っていることだと思います。グループの本社筋が,自社グループの装置を買え,などと圧力をかけてきますしね。コストパフォーマンスの悪い装置を買わざるを得ない,という状況も日本メーカーには不利に働いているでしょうね。

筆者 これまでのことをまとめちゃうようで恐縮ですが,韓国や台湾メーカーは,半導体という産業においてはインテグレーション力とか,コスト競争力をかなりスムーズにつけていったようです。なぜ,うまくいったのでしょうか。

C氏 米国のやり方をまねしたからでしょうね。韓国メーカーは,技術そのものは日本メーカーから学んだ面も多かったのですが,マネジメント手法は米国を手本にしたということだと思います。

筆者 米国のマネジメント手法とは例えばどういうことですか?

C氏 ベンダーに対する支払い一つとっても,韓国メーカーは欧米流と同じで,納入時に払ってくれるから現金の流動性が高い(日本は購入後の月末締め,数カ月後の手形決済)。とにかく根底にあるのは,株主に対する利益を最優先する考え方ではないかと思います。利益を出せるモデルをどう生み出すかを常に考えている。それに対して,日本は顧客の満足を最優先する。それはそれで考え方として正しいとは思うのですが,利益を出せるモデルになっているかどうかは心もとない。

筆者 一般的には顧客の満足を最優先するやり方は賞賛されていると思うのですが,半導体産業では欧米流でないと通用しないということでしょうか。

「韓国は旗を振っている」

C氏 問題は,株主が利益を上げろと言ったときに,経営者や現場の技術者がどういう動きをすることだと思うんです。韓国メーカーは明らかに,経営者が旗を振って,コストダウンを進めろと号令をかけている。しかも,それが現場にまで浸透して,各技術部門の担当者がそれをよりブレークダウンして伝えている。

筆者 旗を振っているわけですか。結局,大切なのは勢い,というか熱意ということなんでしょうか。

C氏 そう確かに旗を振っている。勢いと熱意がある。

筆者 逆に言うと,日本メーカーは旗を振ってないということですか。 

A氏 振ってないですねぇ。国家プロジェクトを見たってそうです。旗振り役がいない。日本の半導体産業の救世主になろうという志がない。個人に責任を持たせていないから仕方ない面もありますがね。税金の無駄遣いですね。

筆者 旗振り役を作るにはどうしたらいいんでしょうか。

A氏 企業としてきちんと利益を上げるための,戦略的な思考ができる人材を育成し,トップにすることです。高齢の方でも優れた方はいますが,一般的に50歳を超えるとどうしても守りの姿勢になってしまいます。優れた戦略思考が行える若手を思い切って登用するような決断が必要だと思いますね。

筆者 若手に戦略思考ができる人材がいますか?

A氏 出てきてもらわなくてはいけないと思います。そのためには日本の社会の中に,そうした人材が重要だという価値観を醸成する必要がある。
 しかし,最近気になることがあります。六本木ヒルズにいた2人の事件のおかげで,利益を上げるために戦略的に思考することを悪だとするような風潮が広がっている。「額に汗して働け」とかね。もちろん額に汗して働くことは大切なことですが,それだけでは少なくとも半導体産業では勝てない。いろいろなところでせっかく出てきた芽がこの2人のおかげで台無しになるのではないかと危惧しています。半導体産業をなんとかするというだけではなくて,私は今,日本は競争力と言う点で極めて怖い状況になっているのではないかと思っています。