コラム

「ウェブ進化論」と「ものづくり/メディア」の相性とは

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2006/03/13 20:01
藤堂 安人=Tech-On!

 最近,取材先や友人と話していて,『ウェブ進化論』(梅田望夫著,ちくま新書)という本が話題にのぼることが何回か続いた。著者の梅田氏は,この本の中でリアルな世界を「こちら側」,バーチャルな世界を「あちら側」と規定したうえで,日本企業が強みを持っているものづくりを「こちら側」であるとし,「『こちら側』のモノはコモディティになる」と書いている。また,「あちら側」で今までメディアに文章を書いてこなかった「不特定多数無限大の大衆」が一斉に情報を発信するようになり,「既存メディアの権威は揺らいで行く」と言う。

 最初にこの本の内容について知ったのは数週間前,製造業に勤めている大学時代の友人と久しぶりに飲んだときのことだった。友人は,「ものづくり」と「メディア」という両方の立場で働く筆者がこの本にどう反応するか興味を持ち,感想を聞いてきた。その後筆者は実際に同書を読み,日ごろ懇意にしている取材先やコンサルタントの方たちと,この本の内容について話す機会があった。

 そこで今回はこの本について,これらの方々と議論した内容の一端を紹介したい。ただし,最初に友人と交わした会話をベースにして,そこにその後の議論も追加する形で再構成したことを予めお断りしておきたい。Aが友人,Bは筆者である。


A:ところで「ウェブ進化論」っていう本,読んだか?

B:いや,まだだ。話題になっているのは知っているが。

A:俺は読んでみたんだが,なかなか面白い。お前のような仕事をしている人間は読んだほうがいいんじゃないのか?

B:なんでだ?

A:お前にとってダブルパンチだからさ。この本の著者はWebがつくるバーチャルな世界を「あちら側」,リアルな世界を「こちら側」と呼んでいるんだが,こちら側のリアルなものづくりの世界の付加価値が下がってあちら側に移っていくと言っている。これが一つめのパンチ。もう一つのパンチは,あちらの世界では誰でもが情報を発信する「総表現社会」が実現しつつあり既存のメディアの存在価値が徐々になくなっていくと言っている点だ。お前はものづくり関係のメディアを仕事にしているんだから,まさにダブルパンチを食らう状況じゃないか?

B:それはどうだろう。「ものづくり」にはリアルな世界とバーチャルな世界という二つの側面がある。例えば,バーチャル試作でリアルな試作を減らそうとしたり,グローバルにネットワークで結んで製品を世界同時立ち上げするプロセスを構築していて,その中でWebも有効なツールと位置づけている。「ものづくり」とバーチャルな世界の相性はいいはずだ。

A:それはあくまで,Webを利用してリアルな世界を革新しようというものだろ? そうじゃなくて,この本で著者はリアルな世界からバーチャルな世界に付加価値が移ると言っている。例えば,パソコンの機能の多くがWebの世界に移っていって,パソコンそのものの付加価値は下がるということらしい。米IBM社がパソコン事業を中国企業に売却したのもそうした世界が来ることを予測したからだと見られている。リアルな世界はコモディティー化して価格競争に明け暮れる世界になると言っている。

B:付加価値の争奪戦が始まるというわけか…。付加価値というと,パソコンなどのデジタル機器で言われている「スマイルカーブ」を思い起こす。似たようなものかな?

A:「スマイルカーブ」はリアルな世界での話だが,バーチャルな世界を頂点とする付加価値曲線が描けるのかもしれない。いずれにせよ,パラダイムシフトが起きるということを言っているようだ。過去にパソコンを契機としてデジタル家電の一部が水平分業モデルにパラダイムが変化したのに,それに気が付かず日本メーカーの多くは垂直統合モデルで負け試合に突き進んでしまったという苦い経験がある。今回もそうした事態にならないように気をつける必要がある。

B:しかしバーチャルな世界の付加価値が高くなるというイメージが今ひとつ沸かないな。米国企業はもうリアルなものづくりには力を入れないということなのか?

A:そうとも言い切れない。Webの進化形で最先端を行っている米Google社は,30万台のサーバーというリアルな世界を持っている。ここからは俺の想像だが,米国は国家戦略として「あちら側」に行く準備を着々と進めているんじゃないか。映像まで含めた情報をWeb上でストレスなく扱えるシステムを開発し,主導権を握ろうとしている。

B:より進化したバーチャルな世界を実現するためのリアルなものづくりというわけか。そうした世界が見えているのなら,日本もそれに向かって頑張ればいいじゃないか。日本だって目標さえ決まれば集中力は相当なものがあるし。

A:確かにそうかもしれない。しかし,新しいウェブの世界を切り拓いてデファクトを取るような,スケールの大きい半導体やソフトウエアを日本主導で開発するのは難しい状況になってきているんじゃない? 米国がそれを許さないような気がする。

B:まるで米国が日本を目の敵にしているように言うなぁ。

A:目の敵と言うより,米国は日本が怖いんじゃないだろうか。日本は製造業の基盤技術が充実している。いわゆる裏の競争力も高い。自動車では今年トヨタが世界一になる。これに対して,米国にはコンピュータ・IT分野の主導権だけは絶対に握り続ける,という強い意志を感じる。韓国や中国にはその心配があまりないから,中核ではない部分でシェアトップを許しているんじゃないだろうか。

B:そうなんだろうか。だとしたら,米国がコンピュータ・IT分野で主導権を握ろうとする原動力はどこから来るの?

A:それには様々な背景があるだろうが,シリコンバレーを中心にIT分野の専門家がコミニュティーを作って皆で目標を立て,IT産業を育成していこうと考える土壌があるからだと思う。米国では会社への帰属意識が低く,いったんある分野の専門家になったら,一生それで飯を食っていく。専門を活かせる産業分野がなくなったら職を失い,自我を喪失する。彼らが拠って立つ分野として,IT産業を掲げているという面があると思う。

B:では日本はどうしたらよいのだろう。国家プロジェクトをもっと活性化するとか…。

A:それも大切なことだろうが,やはり日本企業の底力に期待したい。業績は低迷していても,中を見るとまだまだ優れた技術を生み出せる組織は多い。そういう元気な組織を独立させるなりしてもっと活性化する。または,日本人にも優れた構想力を持った方がいる。そうした方をもっと組織的に優遇して,人材と資金を思い切って投入するとか。ここが頑張りどころではないだろうか。

「神の視点」を持てるか

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Tech-On!ユーザーからのコメント
ユーザーからのご意見
■「あちら側」の重要性が増していくという主張には賛同しますが,「こちら側」のものづくりの全てがコモディティー化するというのは,極論に過ぎるでしょう(そう思いたい人たちがいることは理解しますが)。
ビジネスという視点で考えた場合は,「自らの強み」をまず出発点にすべきで,その意味で(典型的な)日本企業ならば,「こちら側」で今後も勝負を続けるべきではないかと思います。
「これからは『あちら側』の時代か。ならばそっちに行こう」というのではあまりに短絡的であり,そうやってこの10年,日本企業は失敗してきたように感じます。(2006/03/20)
■最初のほうの方のコメントに同感で,「尻切れトンボ」な記事だと思いました。タイトルに対する答えが出ていない状態での思考停止では,発信としてよくありません。まずは,藤堂記者ご自身に『ウェブ進化論』をご精読いただき,著者の梅田氏を取材された上で,続編を発信されてはいかがでしょうか?
某著名インターネットショップのレビューが,約1ヶ月で35件入っていて,『超バカの壁』よりも勢いがあります。内容も,こちらの記事やコメントに劣らず,とても充実しています。私も今回の記事は,「まずは読んでみたい」と思うきっかけになりました。
数年前に某誌に連載されていた梅田氏のエッセーだけで判断していたら,手に取ることも無かったでしょう。(2006/03/14)
■Googleの扱う情報は,自己発信されたものだけです。情報の所有者が発信したくない情報は,出てきません。メディアには,その情報伝達を期待します。所有者が発信したくない情報でも,重要なものはあります。
またGoogleは,新しい情報を作りません。彼らは整理するだけです。メディアは情報の作成,整理の両方を担います。整理はGoogleに任せても,作成は残ると思います。(2006/03/14)
■「あちらがわ」では大量の情報が流れていますが,本当に重要な情報は「こちらがわ」にとどまっていて,流れ出てきません。マスコミの多くは,隠れた部分を掘り起こす努力を怠っている感があります。
ネット上のみのメディアでは,この状況は改善できないのではないでしょうか。(2006/03/14)
■全体に非常に面白い議論であり,いわゆる「形式知」については,今後の一つの方向性を示すものと感じました。
しかし一方で,人類の未来を考える上では,これがすべてではなく,もう一つのより大きく重要な問題についてITの関わりがあると考えています。こちらについての議論も,今後,さらに重要となり,日本の将来の産業を考える上でも重要なファクターと思います。これは,「ウェブ進化論」ではカバーできないと思いますので,それについて,簡単に触れてみたいと思います。
「ウェブ進化論」にも,多少記載がありますが,検索が比較的に適用し易いテキスト情報中心の世界については,概ね「ウェブ進化論」の予想する方向性が当てはまります。いわゆるPC用のソフトの大部分が,いずれ自動化され,無償に近いサービス化に向かうと思います。しかし,それはいわゆる現在のデスクトップPCに代表されるパソコンや個人ユースの情報端末の話で,それを大きく超えるものではないと思います。
いわゆる,言葉,言語に関わる,ありとあらゆるものは,いわばバーチャルなもの(約束事)で,人間の知的活動の副産物です。「ウェブ進化論」は,このようなバーチャルなものに対しては有効ですが,人間の動物的活動であるリアルなもの(直感や感性)には有効とはいえません。
人間は動物であり,瞬間瞬間は五感を頼りに生きているわけで,知識のみで生きているわけではありません。今,ITはまさしくこの五感の分野で人間に代わって進出しようとしています。さまざまな高度なセンサーが開発され,制御系のマイコンやアクチュエータ,ロボットとの連携で,いわゆるユビキタス社会の実現に向かっています。
センサーネットワークなどで一部はウェブにもつながる部分はあるでしょうが,私自身は,それはごく一部に過ぎず,大部分はその場の機器や設備によるリアルタイムなソリューションの提供にならざるを得ないはずと思っています。その履歴や,それらを元にした判断基準といったものは,形式知化できるとしても…
そして,今後はそのような,いわば直感の世界におけるITによる支援の高度化が,むしろ大きなテーマであり,産業の基盤になっていくと感じています。日本は,この分野に大きく注力すべきであり,また,人材も少ないのが現状です。
テキストの世界はGoogleに任せてよいのではないでしょうか。(2006/03/14)
■物の世界は,いつか飽和します。いずれ,恒常的に生産力が消費を上回る,構造的なデフレに至ります。しかし,情報は,それぞれの脳が消費すると同時に再生産し,増強されます(もちろん,多くは陳腐化する)。
情報の価値を,日本人は戦前から軽視してきたといえます。物量で負けたのも事実ですが,それ以上に,情報力で完敗していたのです。社会主義では,流通が国家管理され,物は配給されます。いま,情報は,所謂マスメディアから配信されています。この状況は,社会主義的ともいえ,不合理なことだと思います。
Googleの野望は,アメリカの国家意志が反映したものであるかどうかは不明ですが,その影響の大きさは,我々の想像を超えた大きなものになると思います。(2006/03/14)
■「勝ち組」「負け組」の次は「あちらがわ」「こちらがわ」ですか…。もう飽きました。(2006/03/14)
■メディアの本質は「何かを主張すること」ですから,この部分がGoogleに置き換わるとは考えられません。もちろん,主張のない似非メディアは簡単に淘汰されるでしょうが。
日経の各誌については,一部の例外を除いて,ここ数年,非常に良くなったと思います。淘汰されないメディアへの第一ステップはクリアしているのではないでしょうか。(2006/03/14)
■もしかして,本ブログには3ページ目があるのではないですか? 尻切れトンボな印象があります。
内容に関しては,機械は人を超えた神にはなり得ず,人とは別物の進化を遂げるのではないか,というか,別物と考えるべきではないか,と考えています。(2006/03/14)
■私の考える構造は,もう少しシンプルである。
基本技術の発明で技術的な地位を築き上げてきた米国であるが,実用化や製造のノウハウに関しては,アジア他国にその地位を奪われかねない。自分もデバイスの開発を行っていたが,十分なユーザーからの情報と製造のノウハウが共有化,自動化されれば,中間過程は要らない。自分の力で自分の力量の分だけ,十分な評価が手中に出来るはずだと夢想するのである。それと同様に,ネットにて情報の共有化が容易になり,それに基づき,中間プロセスの自動化が具現できれば,あとは自分の世界だと。その時は,今以上に考える人,作るだけの人,という地位の格差が広がってしまう。逆に,そういった世界を思い描いているのではないかと思う。(2006/03/14)
■その本はまだ読んでいませんが,ご紹介された限りでは,いくつかの疑問を禁じえません。
まず,リアルな「モノ」がことごとくコモディティ化するというのは,日本のネットビジネスの現在の状況に反しています。「限定XX」の食べ物や菓子がインターネットで注文を受けられるようにして大変な人気になり,何日も待たなければ注文することすらできない,ということがあちこちで起こっています。むしろ,ネットの時代の方が,「限定品」の人気が高まるのではないでしょうか?
また,21世紀に必ず問題になるであろうといわれる天然資源,例えば石油や食料の不足といった問題に,ネットの情報がいかほどの力を持ち得るのか疑問に思います。インターネットを使って省エネの方法を情報共有することはできるかもしれませんが,パソコン自体ではエネルギーを消費できても,天然資源を生み出してくれるわけじゃありません。(2006/03/13)
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