韓国メーカー「強さ」の原点はポスコ?

 先週,ある公的機関で日本の競争力を調査されている専門家の方が「日本の製造業の競争力について議論したい」と声をかけて下さったのでお話した。議論と言うよりは,その専門家のご意見を拝聴するだけだったが。その中で,韓国メーカーが日本をキャッチアップする戦略を採っていたのにもかかわらず分野によっては日本を凌ぐようになったのはなぜだろうか,という話になった。

 韓国メーカーは日本メーカーの技術のまねをしている限りは浮上できなかったとその専門家は見る。ある時期に「圧倒的な供給力=競争力強化」という方程式に気付いたはずだという。そして,そのきっかけは韓国の鉄鋼メーカーであるPOSCO社(以下,ポスコ)ではなかったろうかと洞察してくれた。

 ポスコは,新日本製鉄の技術協力で1973年に国営の製鉄所としてスタートして以来成長を続け,2005年には売上高21兆7000億ウォン,営業利益5兆9120億ウォンをあげるアジア有数の鉄鋼メーカーになった。「以前はやることなすことすべてうまく行かなかった韓国メーカーにとって,供給力を上げてシェアを取るというポスコの戦略は強烈な成功体験になったはずだ」と見る。

 もう一つ,その専門家が強調していたのが「最も安い鉄鉱石と燃料を使えるように高炉を立地して世界最適調達を図る」という徹底した低コスト戦略をとれたことが大きいという点だ。これに対して当時の大手鉄鋼メーカーは,鉄鉱石や燃料について国内産業保護などの様々なしがらみに縛られ,必ずしもその時点で最も安価な原料を使えたわけではなかった。韓国メーカーは,半導体でも自動車でも日本メーカーよりコストを低く抑えられているが,その一つの要因は「とにかく世界中を見て最も安いものを調達する,という考えがポスコの体験を通じて身についた可能性がある」とする。

 果たして韓国製造業の競争力のルーツがポスコにあるのかどうか議論はあろうが,人とカネを湯水のごとく投入して圧倒的な供給力を確立してシェアを確保し,最も安価な部品と装置を買ってきてコスト競争力を上げて収益拡大を図る,という考えてみれば製造業の「王道」を韓国メーカーは突き進んでいる,ということかもしれない。

 では,こうした韓国メーカーの戦略に対して,日本メーカーはどうしたらよいのだろうか。「選択と集中」を進めて積極果敢に攻める一方で,人とカネを湯水のごとく使える状況ではないのだとしたら,同じ土俵で戦うのではなくてビジネスモデルを変える必要がある,くらいのことしか今は言えないが,先述の専門家の方がこう言ったことだけは書き留めておきたい。

 日本人はとかく「擦り合わせ」という世界に安住,自己満足に陥り,直面している問題から目をそらそうとする傾向があるのではないか。「擦り合わせ」という微調整をすることが必ずしも韓国メーカーなどと対峙した際の競争力アップにつながらないこともあるということを認識しなければならない,というのである。

 筆者もこのコラムで「擦り合わせ」の重要性を説いており,それが競争力アップにつながるという考えは今も変わらない。しかし,意図とは反して「すり合わせ過剰」の雰囲気を醸成しているとしたら反省しなければならない。そう思った次第である。